本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2021-08-31から1日間の記事一覧

『宵待草夜情』 連城三紀彦

思い出しても記憶の闇に埋まるように頼りない輪郭しかもたない風景が、私の心を惹きつけ、苦しめるのだった。 娘の躰は、風を掬ったかのように何の手応えも私の手に残さず水底の方へ沈んでゆく木の葉を思わせる頼りなさで畳の上に落ちた。 近代文学と官能小…

『52ヘルツのクジラたち』 町田そのこ

海にインクを垂らせば薄まって見えなくなってしまうように、心の中にある水が広く豊かに、海のようになれば、滲みついた孤独は薄まって匂わなくなる。そんなひとはとてもしあわせだと思う。だけど、いつまでも鼻腔をくすぐる匂いに倦みながら、濁った水を抱…