本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

芥川賞候補作全部読むチャレンジ

昨日は芥川賞発表がありましたね。

今回は上田岳弘さん『ニムロッド』町屋良平さん『1R1分34秒』が受賞しました。

二人とも好きな作家さんだったので嬉しかったー。

 

私は3年ほど前から芥川賞の候補作を全部読んで受賞予想作を決め、ニコ生で解説を聞きながらドキドキして発表を待つというのが恒例になっています。

半年に一度の祭りと化した芥川賞候補作全部読むチャレンジ。

今回はそのことについてお話ししてみようと思います。

 

 

 

祭りの始まり

 

芥川賞の候補作を全部読もうと思ったきっかけは、第153回2015年上半期の芥川賞の候補作に又吉直樹さん『火花』が入ったので、他にどんな作品が候補入りしたのかなと思って調べたところ島本理生さんの『夏の裁断』もあり、これも読みたいしどうせなら全部読もうかな?と思ったことです。

『火花』は候補入りの前にすでに読んでいたし、『夏の裁断』も読むことに決めたし、あと3つ読むだけだから全部読めるんじゃない?と思ったのですが、結局発表前に読み終えられた他の候補作は、次の回で芥川賞を受賞された滝口悠生さんの『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』だけ。

『火花』と同時受賞だった羽田圭介さんの『スクラップ・アンド・ビルド』を半ばまで読んだところで受賞作発表の日を迎えたのでした。

いま考えると惜しい。

読めてなかった候補作には前回の受賞者高橋弘希さんの『朝顔の日』もありました。これも惜しい。

 

発表の瞬間はニコ生の芥川賞直木賞発表&受賞者記念会見生放送を見ながら待ちます。この時始めて見たけど面白かった!

この番組では井上トシユキさん、栗原裕一郎さん、ペリー荻野さんが候補作の解説をしてくれます。

作品についてだけでなく、この作家は今までこういう作品を書いてきたとか、この作風のこういうところが審査員に受けないとか、今は文学界にこういうバイアスがかかっているからこういう流行りがあるからこの作品が受賞するんじゃないかとか。

そういった裏話まで聴けて自分の読みだけではわからなかった作品世界がわかるのも楽しいし、見ている人もそこに自由にコメントをしていてそれを見るのも面白い。

 

読書っていう趣味はそうやって自分以外の人とわいわいと何かをやるということがほとんどありません。

だからそうやってみんなでなんやかんや言いながら発表を待っている時間が、1人で作品を向き合っている感じとは対称的に「祭り」といった感じがして楽しいのです。

 

毎回見ていると解説員それぞれのキャラや作品の好みがわかってきたり、毎度おなじみの流れがあったりするのも楽しいので、まだ見たことがない方はぜひ見てみてください。

 

 

 

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

 

 

夏の裁断 (文春文庫)

夏の裁断 (文春文庫)

 

 

 

ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス (新潮文庫)

ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス (新潮文庫)

 

 

 

未来の芥川賞作家に出会える

 

他にもこのチャレンジのいいところはあります。

それは今まで出合ったことのない作家さんの作品が読めるところ、未来の芥川賞の作家さんと出会える確率が高いということ。

又吉さんの回で滝口さんの『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』を読んだ時、この作品が芥川賞かなぁと思いました。なんとなく純文学っぽかったし、その哲学的な雰囲気が好みでした。

しかし蓋を開けてみれば『火花』と『スクラップ&ビルド』が受賞。

予想が外れたことは残念でしたが、滝口悠生さんの作品と出会えたという大きな収穫を得て、このときの祭りは終了しました。

 

そして半年後、第154回の2015年下半期芥川賞の候補に滝口さんの名前が。

これもまた面白いんだろうなぁと思って読んだ『死んでいない者』はやっぱり面白かった。

移人称小説というものをこの作品で初めて読んだのですが、混然一体とした独特の一体感が好きでした。

 

半年前はノミネートされた候補作を全部は読めなかったけれど、この時は全部読めました。

『死んでいない者』と同時受賞となった本谷有希子さんの『異類婚姻譚』も読みましたが、私がこの作品に受賞してほしいなと思ったのは滝口さんの『死んでいない者』と、上田岳弘さんの『異郷の友人』。

今回『ニムロッド』で受賞した上田さんの作品もこの時に初めて読みましたが、今まで読んだことのない異様な迫力があって、どこに連れていかれるのかわからない不穏さに惹かれました。

この回では『異郷の友人』は受賞できなかったけど、上田さんの作品が読めたことが収獲。

 

こんな風に惜しくも受賞しなかった作品でも、自分好みの作品に出合えるんです。しかもその作家さんがその後受賞する可能性も。その時に「前回候補入りした作品もよかったんだけどねーー」と悦に浸れる可能性も。

これがこのチャレンジの楽しいところ。

 

 

死んでいない者

死んでいない者

 

 

 

異郷の友人

異郷の友人

 

 

 

今後受賞を期待している作家さん

 

前回落選した作家さんの作品を推して受賞したことは滝口さんの『死んでいない者』や上田さんの『ニムロッド』町屋さんの『1R1分34秒』などがありますが、初めて候補入りした作家さんの作品、初めて候補を読んだ作品を受賞予想作にして当てられたこともあります。

村田沙耶香さんの『コンビニ人間』、石井遊佳さん『百年泥』、若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』です。

 

でも一発で当てられたときよりも、前回外れて今回は受賞!となった時の方が嬉しい。

だから『百年泥』『おらおらでひとりいぐも』の同時受賞を当てた時よりも、前回候補入りした時に受賞作と予想するも外れてしまった作家さん2人が同時受賞するという今回の方が嬉しい。喜びもひとしお。

 

そんな私、回を経るごとに芥川賞マニアになりつつある私が、受賞予想が外れるもいずれ受賞するんじゃないかな、受賞予想にはいれてないけれどいずれ受賞するんじゃないかな、と思う作家さんをご紹介します。

 

それは『コンビニ人間』が受賞した回で候補作に初ノミネートだった今村夏子さん、崔実さんです。

この回はどの候補作も全部面白いという今でもそれを超えることがないくらいの神回でした。

村田さん今村さん崔さんの他にも、前回の受賞者の高橋弘希さんの『短冊流し』も候補入りしていましたし、のちに島清恋愛文学賞を受賞される山崎ナオコーラさんの『美しい距離』もありました。

 

 そんな中でもこの人は芥川賞受賞するのではないかいや受賞してほしいっ!と思ったのが今村さんと崔さんです。

 

2人の候補作を読んだ当時の私のインスタがこちら↓

 

https://www.instagram.com/p/BH5vQ-0gZhU/

*二人とも笑顔だ。父も母も、ここのところずっと笑顔だ。*..ハッピーエンドだ。でも胸の辺りが、喉の辺りがざらっとする。なかったことにしたとしても、全部見ていたよといってくる無垢な目は残酷だ。だけれど、全部なかったことにして、ハッピーエンドの蓋をするのとどちらが残酷なのだろう。ハッピーエンドというのは、生きてる限りハッピーな一区切りでしかない。盲目的になることができればそれは簡単に得られる。この人たちはきっとこれからも同じようなことを繰り返していくのだろう。#あひる#今村夏子#芥川賞候補作#読了#読書#本#本が好き#ssbookreport芥川賞候補作全部読むも残すところあとひとつ。「コンビニ人間」楽しみ。..サラ・ムーンの方、たぶんあひるじゃない…。がちょう…?.#サラムーン#ロレッタラックス

 

 

https://www.instagram.com/p/BH1eoTrgRc5/

*もしかしたら、私は待っていたのかもしれない。いつか、誰かが私を許してくれる日を。落ちてくる空を、それが、どんな空であれ、許し、受け入れることを、誰かに、良いんだ、と、それで良いんだ、と、認めてもらえる日をずっと待っていたのかもしれない。*..ジニは在日韓国人で朝鮮学校に通っている女の子。テポドンが発射された翌日、ジニは転換点を向かえる。...同じ困難でもそれに対する人びとの反応は様々で、人によってはそれが立ち向かうものであったり、避けるべきものであったりする。ジニのクラスメイトたちはその困難となあなあの関係でいる。諦めている。ゆるくつながり並走しているような。ジニは違う。それを真正面から見据えて、怒り、惑い、打ち砕こうとする。だけどそれはなくならない。いなくならない。欠片になってもいつまでもくっついてくる。クラスメイトたちが間違っているとは思わない。ジニが正しいとも思わない。ただ怒りをぶつけるにしても、打ち砕こうとするにしても、それはその困難をある種を引き受けているということで、だからこそジニは最後にはそれを抱き締めることができたのだと思う。そんなジニがかっこよかった。駄目なところがあっても、どこか欠けているところがあっても、それも含めて受け入れて欲しいと人が思うように、困難自体だって抱き締めて欲しいと思っているのかもしれないと思うようなラストだった。..#ジニのパズル#芥川賞候補作#崔実#読了#本#読書#本が好き#ssbookreport

 

当時の鮮烈な印象は今でも覚えています。

 

 

今村さんはその後『星の子』で候補入りしたのですが、受賞ならず。その時の受賞作は沼田真祐さんの『影裏』でした。

正直『星の子』より『あひる』の方が強烈だったので、納得といえば納得の結果。

でもまだまだこんなもんじゃないと思わせる何かがある作家さんなので今後の作品に期待しています。

 

崔さんは『ジニのパズル』でデビュー以降作品を発表されていないので、どうしたのかなと思っているところ。新作が楽しみな作家さんです。

 

 

 

あひる (角川文庫)

あひる (角川文庫)

 

 

 

ジニのパズル

ジニのパズル

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

芥川賞は候補作全作読まなくても気になる作品を1つ2つ読むだけで、その発表の日が楽しみになりますし、新たな作品や作家さんとの出会いもあるので、今度の芥川賞の際にはどんな作品が候補になったのかチェックして手にとってみてくださいね。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました!