本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

「本が売れない」も、悪いことばかりじゃない?

「本が売れない」って悪いことばかりではないのではないかな。

ふとそう思うことがあります。

 本が売れない時代と言われているけれど、本が売れないからこそ生まれる本や書店があり、本が売れないからこそ浮かび上がる本への愛があるのではないかと。

今日はそう思うようになったきっかけについてお話ししようと思います。

 

 

 

 

 

本に愛がある人しかいない本屋。「本の旅人」巻頭エッセイ

 

本が売れないということにマイナスなイメージしかなかったけれど、「本の旅人」11月号の花田菜々子さん(『出会い系サイトで70人の人実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』著者)の巻頭エッセイを読んで、悪いことばかりじゃないのかもしれない、とわくわくしてきました。

 

なぜ本屋がかっこいいのか?理由を考えてみると、やはりひとつには「売れない」ところ。本屋でどれだけ成功してもセレブになる確率は〇.〇一%。つまり動機が「儲かる」のところにはない。「ギリギリ食える」が勝敗のラインという、ビジネスとは思えない目標の低さ。動機は第一に本への「愛」だし、その本を必要としている人に届けたいという使命感、つまり圧倒的「利他」なのである。儲からないことのメリットはまだあって。儲からないから変な業界人みたいな人がほとんど参入してこない。愛がある人しかいない。天国みたいな場所なのだ。

 

この巻頭エッセイは「本屋本はもっと増えていい」というタイトル。

おすすめ本屋本として、『もういちど、本屋へようこそ』と『本を贈る』の2冊があげられています。

 

この『本を贈る』こそ、「儲ける」ことを考えてない、本への愛が溢れる人しかいない、本好きには嬉しく暖かい気持ちになれる本でした。

 

本へ向けたラブレター本『本を贈る』

 

『本を贈る』の帯には

著者、編集、校正、装丁、印刷、製本、営業、取次、書店員、本屋。贈るように本をつくり、本を届ける10人のエッセイ。

 

とあります。

その帯の通りに本が生まれて、その本を読む人に本が届けられるまでの過程が、それぞれの職業を通して、それぞれのエッセイでわかります。

どんな仕事を経てどんな人の手を経て、それぞれどんな思いを込めて仕事をしているのか。

 

本をどれだけたくさん売るか、本でどのように儲けるか、そんなことを考えている人はひとりもいません。

 

本を必要としている人に届ける。言葉を届ける。思いを届ける。

著者、編集者が本に込めた思いを読者に届ける。

そんな思いばかりが溢れていて、そこには本への愛を感じるばかりです。

 

私はこの本を「本が売れない時代だからこそ生まれた本屋本」だと思いました。

 

 

本を贈る

本を贈る

 

 

 

本好きのためのテーマパーク「文喫」

本が売れない時代だからこそ生まれたのでは?と思う書店もあります。

 

その書店とは青山ブックセンター六本木店跡地にできた文喫という書店です。

 

www.ryutsuu.biz

 このヘッドラインを読んだ時の衝撃。

普通の本屋さんが潰れて入場料をとる本屋さんができるってどういうこと?本が売れなくて潰れたんじゃないの?そこで入場料とる本屋さんを作ってやっていけるのか…?

と思いましたが、どうやら大盛況のようで。

 

そこから、本って売れないの?売れてるの?どっち?っていう戸惑い。その後その書店が盛況だと聞いてまた、出版業界って不況なの?不況じゃないの?という戸惑い。

 

こういう現象が起こるということは本好きがわざわざ行きたくなる本屋さん、本好きのための本テーマパークを作らないと書店経営というのは成り立たないのか。

そう考えると地方の小さな本屋さんが潰れていってしまうのもしょうがない気がする…。

 

読書というのは特殊な趣味になってしまったのだろうか。

例えば釣りとかサーフィンとか、そういったような、川に行かないと海に行かないと楽しめないような趣味になってしまったのだろうか。

読書がマニアックな趣味、間口が狭い趣味になってきたのかなと思うけど、そんなことないはずだ。

 

移動本屋さんの店主が『本を贈る』に書いていたけど、ラップフェスにラップの本を持って行けば売れるし、話題の健康本がテレビで紹介されれば売れるように、どんな本があるのか情報があれば売れる。

本は「本好き」な人たちのためだけにあるものではない。

 

本は様々な人の様々趣味に対して開かれているし、様々な生活に寄り添うものである。読書は間口が狭い高尚な「趣味」ではない、もっと生活に根差した「行為」だと思う。

 

カリスマ書店員としてメディアに多数出演している新井さんが言っていた「本は日用品」ってことの意味はそういうことだと思っている。

 

だから読書を趣味とする人をターゲットにする本屋さんが増えていくのもなかなか複雑。

本を読むということ本を買うということがどんどんマニアックなことになっていくのではないかと…。

マニアックな本好きとしては嬉しさももちろんあって。文喫にももちろん行きたくて…。

 

 

おわりに

本好き、書店好きとしてはいつも憂慮している出版不況。

今回はそんな出版不況の良い面に目を向けてみましたが、いかがでしたでしょうか。

本が売れることにこしたことはないしので、もちろんもっと本が売れるようになって欲しい。書店が潰れることなく売りたい本を自由に売れるような環境であって欲しい。作家さんには売り上げを気にせず自分の書きたいと思ったことを書いて欲しい。本について話せる人がもっと増えて欲しい。

などなど、本が売れるようになって欲しい理由は確かにたくさんありますが、売れないなら売れないでそれなりの発展の仕方楽しみ方や利点があるものだなぁと思いました。

でもやっぱり売れるようになって欲しいし、これからも本への需要がなくなるはず。

その利点を踏まえてその需要を踏まえて今後どうしていくのがいいのか…。

今後本や書店はどうなっていくのでしょうか…。

出版業界の人間ではないし、書店経営をしている訳でもないけれど、一読書人として今後も考えていきたいと思います。