本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

戦果アギヤー、生命の泉。

先の直木賞受賞作真藤順丈の『宝島』を読みました。

その後しばらくしてナンシー・ヒューストンの『時のかさなり』を読んで、たまたまだけどどちらも戦争を書いた作品で、どちらも素晴らしい作品だったので、ここに書いておきたいと思います。

 

 

宝島


『宝島』は戦果アギヤーと呼ばれるオンちゃんレイ、グスクが嘉手納基地に忍び込むシーンから始まる。

戦果アギヤーとは戦後沖縄でアメリカ軍から食料や日用品を略奪する行為、またはその行為をするもの。
戦後生活基盤を失った住民にとって彼らは英雄だった。
彼らから届けられた食料、米軍から略奪してきた木材で作った小学校。
それらは戦後を生き抜く糧になっただろう。
だけど戦果アギヤーたちが本当に奪いたかったのは、奪い返したかったのは彼らの故郷、沖縄だった。

 

小説は読み終えることができたけれど、一体何が終わったというのだろう。
彼らが生きた沖縄と今の沖縄と何が変わったのだろう。
彼らは沖縄を奪い返せなかった。
沖縄は今も戦後で、あるいは戦中だとも感じる瞬間さえある。

 

 

第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島

 

 

 

時のかさなり

 

『時のかさなり』はイラク戦争レバノン侵攻、冷戦、第二次世界対戦下をある一族の歴史を交えて書いた作品で、語り手はそれぞれ6歳。

息子、父、祖母、曽祖母と語り手は変わり、それぞれの視点から家族の歴史が紐解かれていくが、一族の物語が最終的に行き着くのは、「生命の泉」というナチス政権下で行われた計画だった。

この物語の中で最初から最後まで登場する唯一の人物は曽祖母のクリスティーナ。

最後に語られるクリスティーナの物語、その出生の秘密を知れば、もう一度最初から読み直したくなる。今まで読んできた3人の物語の色合いが変わって見えるから。より鮮やかな意味を持つから。

 

 

時のかさなり (新潮クレスト・ブックス)

時のかさなり (新潮クレスト・ブックス)

 

 

おわりに。

 

私が知っている歴史というのは、大文字の歴史にしかすぎない。

薄い教科書に載せることができるぐらいの歴史、授業時間内に学び終えることができるぐらいの大文字の歴史。

しかしそこからこぼれてしまった歴史にだって、信じられないような苛烈なもの悲惨なものがあるし、知っておかなければいけないものがある。

 

小説にはそんなこぼれてしまった歴史ばかりがあって、教科書から授業時間からこぼれた歴史を知れば知るほど、そこに生身の人間がいて、生の感情があったことに気づかされる。

 

戦果アギヤーという言葉も生命の泉という言葉も、小説を読むまでは知らなかった。いや、もしかしたらどこかで触れたことはあったかも知れない、けれど小説を読むまではこんなに重さを持った言葉ではなかった。

 前にもこちらのブログで書いたけど小説は、小説という虚構しか持ち得ない力でこちらに戦争の悲惨さ人間の残酷さを伝えてくる。

『宝島』も『時のかさなり』も、今を生きる人にぜひ読んでほしいな、と思う素晴らしい作品だった。

 

 

bookbookpassepartout.hatenablog.com

 

クレストブックスの何かを読みたいな、と思って偶然手にしたのが『時のかさなり』で下が、たまたま手にとっても名作率高いのはさすがクレストブックス。

しかしこの『時のかさなり』。今ではもう絶版のようです。

こんなにすごい作品なのに、フェミナ賞も受賞しているのに。

これは本当にもったいない。

 

しかしクレストブックスって初期の方は表紙に写真使ってるパターン多いですよね。なんでなんでしょう。