本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『生のみ生のままで』 綿矢りさ

男だから、女だから。そんなことはどうでもよくて。あなただから恋に落ちた。

恋の純度の高さ、その息苦しさ、その恍惚。

 

 

生のみ生のままで 上

生のみ生のままで 上

 

 

 

生のみ生のままで 下

生のみ生のままで 下

 

 

女性同士の恋愛小説だからって何も構える必要はなくて、特殊なところはほんのちょっとだけで、紛れもない恋愛小説だった。

恋ってそこら辺に幾らでも落ちてるように見えるけどそんなことない。ましてやこんな純度の高いものは。どんな恋愛小説よりも恋愛だった。

 

 

「今は人間が人間を愛する時代」と誰かが言っていた。この小説を読んで私の中でその言葉の確かさがどんどん増していくのを感じた。

 

男性脳女性脳があって、性別で考え方や価値観の違いがある。

価値観の違いで別れを選ぶカップルが沢山いる中で価値観や考え方が一緒な同性同士が恋に落ちる確率が低いのはなぜだろう。

なぜ異性愛者の方が多いんだろう。

同性愛者はなぜ少数派なんだろう。

なぜ両性愛者は少数派なんだろう。

それが種の発展や保存のためならば、私達のたった一つの命が人類という大きな流れに乗っ取られているような気もする。

 

同性婚の是非が問われているのを見ていると、異性愛者だけど同性の友達と家族になりたくて結婚したいと思っている人たちのことは考えられているのだろうかと思う。

同性婚を認めると子供が生まれなくなって社会が成り立たなくなるっていう意見に、反論として同性愛者は少数派だし、同性婚を認めたところで異性愛者が同性と結婚しようとは思わないから問題ない、と言っている人がいたけれど、本当にそうだろうか。

ジェンダー観がどんどんと変わっていっている今、家族像も変わっていっている。

そんな中で異性愛者だけれど同性婚を望む人だって出てくると思う。出てきていいと思う。

 

異性愛者同士の同性婚はいわゆるエロス、恋愛や性愛の愛ではないけれど、「この人と一緒に生きていきたい」と思うことだって愛だと私は思う。

 

 

『生のみ生のままで』の中の2人はそれぞれ自分のことを異性愛者だと思っていたけれど、ある日突然同性であるお互いに恋をする。

そんなことだってあったっていいと思う。

恋に落ちる相手や家族になる人をその人が属する性や相手に属する性によって縛られない、そんな世界が来ればいい。