本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『惨憺たる光』 ペク・スリン

「光」の持つ表裏と矛盾と魅惑。光の中で、ある人は癒しを得、ある人は心痛い現実に直面する。私たちが人に生まれた瞬間から、運命的に知っているもの。それは時に痛みであり、共感であり、懐かしさでもある。違うのは、それにいつ気付き、どう受け止めるかだけ。

 

「K-BOOK読書ガイドちぇっくCHECK」にのっていたこのあらすじを読んで、これは読んでみたいと思ったペク・スリン『惨憺たる光』には、韓国文学を読んでいつもそこで感じる韓国文学らしさをあまりなく、そこが新鮮だった。

 

10ある短編のうち、殆どの短編の舞台が韓国ではなくパリやリヴァプールだから、って訳ではないと思うんだけど…。

 

異国が舞台だからこその異邦人の心許なさ、またそこで過去に思いを馳せる登場人物たちの過去に対する心許なさが印象的だった。

本当にそんな過去が存在したのか、そこではどんな風に時間が流れていったのか、今はここに存在しない過去について思いを馳せる時、人は異邦人になる。

 

 

最後の短編は未来に対する心許なさもあった。

語り手は胎児。

胎内に宿った時に起こった事件によって、自分が生まれ出た後の国家、未来に希望が持てず、14年間もそこに留まり続けている。

 

この短編の最後の方で書かれてた韓国人にとっての国境とはどういうものかを読んだ時、この国の歴史の重さ悲しみに気付かされて胸が苦しくなった。

 

韓国人にとっての国境は民族が分断されている線であり、停戦の状態を表す線でもある。

ヨーロッパを旅する中で胎児が元々持っていた国境観が変わる時、この短編はラストシーンへの加速度を増すのだけれど、そこを読んで、やっぱり島国の国境観と大陸の国境観では全然違うのだな、と気付かされた。

 

 

今読んでいる別の本でも、「日本は1つの川が自分たちの国で始まって終わるからいい」と書いてあって、はっとした。

「川が1つの国で始まって終わる」なんて当たり前過ぎて考えたこともなかった。

そうではない国は、上流の国が森林伐採をすることによって、下流で川が氾濫する、というようなことが起こって、それが国家間の問題になっているそうだ。

 

ちょっと考えればわかることだけど、どうしても自分が生まれた国の感覚でものを見てしまう。

それがどれだけ自分の思考を狭めて貧相にしているかと思うと、まだまだ多くのことを知らないといけないなぁと思う。

 

 

惨憺たる光 (Woman's Best 9 韓国女性文学シリーズ6)

惨憺たる光 (Woman's Best 9 韓国女性文学シリーズ6)

  • 作者: ペク・スリン,カン・バンファ
  • 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
  • 発売日: 2019/06/27
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