『どうしても生きてる』 朝井リョウ
はいはい。正しい正しい。誠実誠実。
思い出して、由布子は笑ってしまう。
なーんにも言ってないことと同じ言葉を掲げて、誠実ぶって。気持ち良さそー。
話者である自分は、誠実にこの問題に正しく向き合っていて、真摯で、社会に対して正義を祈ってる存在です。そう喧伝したいだけのやつら
すーーごい疲れた。読んでいて心が休まるとこがどこにもない。でもページを捲る手を止めるタイミングもない。休み休み読むなんてことが出来ないから、限界まで読むしかなかった。
こんなに疲れる読書はどれくらいぶりだろう。
前から朝井さんの作品は、頭を目の前の画面に固定されてどこにも目をそらすことができずそのままの姿勢で、まるで説教をくらっているかのような書き方だなと思っていたけど、今回のこの作品が一番固定感もすごかったし、目の前で言葉を浴びせられてる感がすごかった。
6つの短編の主人公たちはそれぞれどうしようもない苦難や鬱屈を抱えていて、行き場を無くしている。
目の前にいたら何も言葉をかけられないし、「そっとしておく」という優しいんだか冷たいんだかわからない対応をとるしかない人たちだ。
それぞれの短編はそれぞれの終わりを迎えるけど、決してわかりやすい救いがあるわけでもない。
それぞれが抱えるどうしようもなさはこれからも続くんだろうな、と思わせる終わりばかり。
そのどうしようもなさに真実味が溢れていた。
読んでいる途中からこれは、朝井さんの最高傑作なのではないかと思った。
直木賞を獲った『何者』なんて目じゃないくらい。この本で獲った方がよかったんじゃないかってくらい。
朝井さんは若いうちにあんなに大きな賞を獲って、それは「今後の伸び代に期待」っていう意味もあったのだろうか。
でも伸び代に期待されて賞を取るより、作品そのものを評価されて受賞の方がいいよね。
でもそうしたら今度はその作品を越えなきゃいけないっていうプレッシャーがすごいのかな。
でもどちらにせよ、この作品によって直木賞後のプレッシャーとか課題とかそういうものから突き抜けたのではないかな、って勝手に思うくらいの作品でした。