本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『やがて海へと届く』 彩瀬まる

その苦しい苦しい大泣きの日が本当に来たとして、たとえば今の俺みたいなおせっかい野郎が現れて、苦しみをごまかしたり、薄めたり、そこから引き上げようとしていたら、きっとぶん殴りたくなる。俺はなにがこれほど苦しいのか、この苦しみがなぜ俺の人生に投げ入れられたのか、一生懸命に考えてるんだ。ぎりぎりの、精一杯の、神聖な戦いなんだ。邪魔するなって思う。

 


あの日を、あの悲惨な出来事を忘れないでって言うことは、ずっと悲しみや痛みを引きずって歩いていけと言っているような気がした。

でも悲しみを抱えている人に、みんな同じ悲しみを抱えてる、みんな悲しいんだから笑顔で前向きに!というのも悲しむことを汚ないもののように否定しているようで辛かった。

私の抱えてる感情は私だけのもののはずなのに、一般化されたり比較されたりする。

誰ともわかちあえないような辛さや一人を誰もが持っていて、それはその人にしかないものだから、その人自身でもあるからそれを否定したり、わかったように軽んじたりしてはいけなくて、
でもそれがわかったら、みんな誰もが誰ともわかちあえないものを持っているという共通点で寄り添うことができるかもしれない。

自分でどうにかするしかないもの、自分で埋めるしかないものだけど、そのどうしようもない一人を誰かが見守ってくれたらいいなぁと思った。
その先でまた誰かに会えたらいいと、そう思わせてくれた。

暗闇を暗闇のまま掬い上げてくれる、寄り添ってくれる。そんな大切な本です。

 

 

砂糖を混ぜたコーヒーを飲みながら、誰かを好きになりたいな、と思った。恋人でも友人でもいい。大切にして、その人の肌が日射しで明るくなったり、雨に潤んだりするのを静かな気持ちで眺めていたい。執着や、憐れみや、恐怖から逃れるためでなく、その人と自分を深く信頼し、この不確かなうす明るい場所で指を絡ませて遊びたい。

 

 

 

やがて海へと届く (講談社文庫)

やがて海へと届く (講談社文庫)

  • 作者:彩瀬 まる
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

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