本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『不在』 彩瀬まる

「普通じゃないって思う人生は、困ったり、寂しかったり、大変だけど、それ以外の人生ではわからないことがたくさんわかるよ。わかったものは、あなただけのものだよ。辛いことを生き延びた先で、すごくきれいな景色を見られるよ」

 
誰かに責められた訳でもないのに、そうしない理由やそれができない理由を、言い訳を必死になって考えていた。
誰に聞かれた訳でもない、自分でもうまく説明できないけれどどうしてもできない、そうするつもりもないことの言い訳を。

だけどやっぱり上手く説明できない。
それができないことの理由は言葉にできない。
できないからできない。
できないのが私なんだと思って、それ以上の言い訳は要らない。
そう思ったら、楽になった。

誰に責められた訳でもないのに必死になって言い訳を考えていたけれど、
私がきちんとした理由で説得したかったのは私だったのだと気づいた。

私は私にそれを諦めて欲しかった。私はそれが諦められなかった。
だってそれが普通だったから。
それが普通とされているから。

 


「家族だから」「家族なのに」を繰り返す主人公に違和感を感じてばかりだったけど、
そんな枕詞や前提はどうでもよくて、家族以前に1人の人としてそれをして欲しいのか、それをしたいのか、家族としてじゃなくてその人が必要なのか、そうじゃないのかなんだ。
1人の人としてその人といたいかどうかなんだ、と気付かされるラストシーンに向かうにつれて、主人公に感じていた違和感は全ての伏線が回収されたかのようにほどけて何処かへ消えた。

彩瀬さんもそうした、「間違ってる人なんだけど、自分でその間違いに気づいてない人を書きたかった」と言っていた。
ほんとに最初は違和感を感じたけど、自分もそうした間違いをしてそうだなって共感もしたりした。
彩瀬さんが書きたい話、書きたい人物がそのまま書かれていて、書き切っていてそれを受け取れるのが嬉しかった。

 

 


『くちなし』を読んで感じた「家族が一番大事」で、「家族を一番に優先すべき」ってどれくらい本当なのかな、って思った疑問に答えてくれた作品だっだ。

その2つに、普通に縛られてる人の手をとってそこから連れだしてくれる作品だと思う。

 

 

「無理に愛さなくていいし、愛されなくていいんだ。自分とは違うってそれだけを思って、憎むより先に遠ざかろう。私はそう、思う」

 

 

不在 (角川書店単行本)

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