幽霊とか怪奇現象とかそういうものじゃない怖い話、人間心理に蔓延る暗黒面を書いた怖い話好きだ。
よくいうイヤミスのようなものだけど、ミステリは特に必須でもなくて、でも日本のものじゃないのがいい。
海外文学でなくてはだめ。日本の厭な話とかそういうのはど真ん中にダメージを喰らいそうなので避けたい。
海外文学でも古いのがいい。舞台設定が自分が生まれる前であると尚よい。
ちょっとファンタジーとかSFが混ざってて非日常感があると尚更よい。それが私が怖い話厭な話を楽しめる距離感。
そんな私にぴったりなのがデュ・モーリアの作品だ。
ヒッチコックの映画『鳥』の原作を書いた作家でもあることからわかるように、人間心理を巧みに描く作品が多くある。
モーリアの『人形』は人間の狡さや虚栄心、独善的で自分本位であることにすら気付きもしない純度100%のエゴイズム、人間の暗部を書いている短編集だ。
だけど、読んでいて目を背けたくならないのは、そこまで醜悪に感じないのは、モーリアが人間のそうした部分を肯定も否定もせず透徹した、だけど鋭い目線で書いているから。
同情や糾弾などを交えずに、それそのものを切り取り不純物を削り落とすように書いているから。だから読み手は丁度いい距離感でそれを観察するように読むことができる。
時折、人の狡さを書いた作品に触れたくなるのは怖いもの見たさという興味もあるけど、これから先何を見てもびっくりしないように、その時感じるであろう怖さやおぞましさを少しでも抑えられるようにという予防接種のような役割を期待してるのかもしれない。
綺麗なものばかり見てると、醜悪なものが現れた時に動揺するし、何もわからないまま、わかろうとしないまますぐに拒絶してしまうかもしれないから、ある程度の免疫がついてた方がなんかいろいろ本質とか背後にある構造とかにも目が向いていいかもしれない。
実際に経験しないですむのならそれが一番いいのだろうけど。