本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『秘密』 ケイト・モートン

ケイト・モートン『秘密』を読んだ。

 

翻訳ミステリー大賞・読者賞を受賞し、ミステリ好きたちの間で話題となり、イギリスが舞台で母親の謎めいた過去を解き明かしていくというストーリーと、興味をそそられるポイントに溢れていて、前々から気になっていた作品だった。

 

上巻はそんなに評判になるほどかな?まぁまぁ面白いけど?という感じだったけど、下巻からの盛り上がりというか加速度混沌度がすごかった。

上巻からの物語の重なりが下巻になってきいてくる。

 

母親の過去の秘密についての物語なんだけど、そこに光をあてる語り口が多種多様でそれが物語を重層的なものにしている。

まず、語り手がいる時代にしても、母親の過去に疑問を持つきっかけが発生したパート、母親が秘密を持つきっかけが発生するパート、母親の生い立ちパート、母親の死期が迫り過去を調べ始めるパートといくつもある。

そしてそのそれぞれのパートひとつにつき語り手が一人ではなく複数人いる。

その語り手たちがまたそれぞれ違う魅力を持った人たちばかりなので、そこでもひとつの出来事に対してそれぞれ違った光があたることになるので、見え方も変わってくる。

 

しかし光のあてかた、語り口は多種多様でも、それでも最後にはたったひとつの真実が浮かび上がる。見事としかいいようがない。

 

この作品を読んでミステリを書くのが上手い人は情報開示の匠というか、情報の出し方その順番を一つも間違えない人のことをいうのだな、と思った。
ミステリの良し悪しは情報開示の仕方で決まるな、と。

 

どの出来事をどのような魅力や性質や癖のある人物の視点で、どこの時代から書くのか。選択肢は無数にある。絶対に頭脳明晰で決断力がないとその一つ一つをこんなに緻密に織り上げることなどできない。

 

ケイト・モートンはその技術が半端ない。達人技だ。

 

私には到底できない。でもこの順番でないとこの積み重ね方でないと、絶対にこんなに面白くなかっただろうなってことだけはわかる。

 

あらすじ

1961年、少女ローレルは恐ろしい事件を目撃する。突然現われた見知らぬ男を母が刺殺したのだ。死亡した男は近隣に出没していた不審者だったため、母の正当防衛が認められた。男が母に「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と言ったことをローレルは誰にも話さなかった。男は母を知っていた。母も男を知っていた。彼は誰だったのか?ケイト・モートンが再びあなたを迷宮に誘う。