本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2022年上半期の本ベスト10

 

2022年上半期は81冊の本を読みました。

その中でベスト10を決めたのでそれぞれの本の感想をまとめたいと思います。

 

ツイッターはてなブログに書いた感想を読み返してみると、その時の感情が蘇ってきたり、いい本だったことは覚えていても詳しい感想は忘れていたりしたので、自分の用のメモとして残しておくのもいいかなと思いまして。

 

特に『ケアの倫理とエンパワメント』の感想は、ちょっと読んだだけでは自分でも何書いてるのかわからなかった…。

「いい本だった!」「面白かった!」と思っても内容が頭に入ってないのはあんまり意味がないし、ちょっと勿体無い。

脳みその中にインストールするつもりで、ちゃんと再読しよう。

 

 

 

『ケアの倫理とエンパワメント』小川公代

文学をケアという視点から、またケアを文学を通して読み解く。

ヴァージニア・ウルフオスカー・ワイルドのところが特に面白かった。

 

自立するという「男らしさ」を持ちながらも、敵対や分断という負の「男らしさ」を抑制し、間主観的で共感に基づく多孔的な自己であることは私自身なりたい姿だった。

互いに依存することなく自立しているけど、間主観的で共感的でケアする側とされる側にはっきりと二分されることなく、どちらか一方にケアの負担が過剰にのしかかる関係でもなく、ケアが循環していくような、持ちつ持たれつがまともに成り立ってる関係も理想で憧れる。

 

でも他方で、持ちつ持たれつでなくてもどちらか一方がケアするばかりで成り立ってる関係もどこかにあるだろうな、それはどういうバランスで成り立っているのだろうなとも思う。

 

 

 

『読者はどこにいるのか』石原千秋

文学論を読みたいなと思って手にとった本だけど、文学部は花嫁学校的な存在だったの?と驚いてフェミニズムの本を読んでるみたいで面白かったし、ほかにも構造主義とか言語論的転回についても勉強できたのもよかった。

でもその知識が全く自分のものになっていないのでまた読み返したい。

難しいことをわかりやすく説明してもらって、面白い!と思ってもその知識も自分のものにするのってなかなか難しい…。

 

こちらの本については、はてなブログにも書きました。

 

 

bookbookpassepartout.hatenablog.com

 

bookbookpassepartout.hatenablog.com

 

 

 

 

『それを読むたび思い出す』三宅香帆

書評家三宅香帆さんのエッセイ。

小説家ではない人の、でも本をたくさん読んでいる人のエッセイが好きだ。

本についてのエッセイは、なぜか読む前から甘いような切ないような気持ちになってしまう。

 

形容詞を並べたてる感想は実がないかもだけど、男前さもドライさもありつつ、しなやかで切なくもある文章が、ここにある感性が好きだった。

本の話が好きだし、本を読んで湧き出てきた誰かの記憶や感情の話も好きだ。本の話よりもっと好きかもしれない。

 

本を読んで、こういうところが面白かったここのシーンが好きだったと感想を言うよりも、私も同じこと考えてた私にも同じような思い出があって、とかそんな自分語りを私はしたいのではないかと思い始めていて、だけどそんな自分語り誰が必要としてくれるんだろうと思う。

だけど私は、本が好きな人のそんな自分語りが読みたい。

そんなことに改めて気付かせてくれた本でした。

 

 

 

 

『白い薔薇の淵まで』中山可穂

好きな恋愛小説としてあげてた作品はどれも、のほほんとした柔らかな両思い小説ばかりで、こんなに苛烈なものはなかった。

 

苛烈な恋愛小説って、登場人物が自分がしてる恋に酔ってるように見えて、どこかナルシシズムを感じてしまうから引いてしまうこともあるけど、この小説はそんなところが全くなかった。 展開に違和感やベタを感じはしたけど、兎に角文章が綺麗。

 

濃厚で綺麗で、こんなに身も心も憔悴するほど苛烈に誰かを求めるようなことは私には起こらないだろうけど、この小説が読めたからそれでいいな、と思えた。

自分の人生には起こらないであろうことを追体験できる。

これぞ読書の醍醐味。

 

 

 

 

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直

久しぶりに小説を読んでいるのではなく、小説に読まされている感じがして、スピード感と吸引力がすごかった。

固有名詞がいっぱいで情報量も多いのに立ち止まらせることがない。引っ張られるので慌ててついていく、巻き込まれていく。

 

タイトルの通り、ジュリアン・バトラーの人生が綴られていくのだけど、実在の人物も多数登場する。

架空の作家ジュリアンが虚実入り混じったごった煮の中で読者を翻弄し、舞い踊ってるのが楽しいし、わくわくする。

 

読んでいて『風と木の詩』とか『エドウィン・マルハウス』とか他の作品が浮かんできて頭が混沌としてくるのもよかった

読んでると他の作品の残像が重なってきて繋がりがでてくるの好きだ。

 

 

 

『平熱のまま、この世界に熱狂したい』宮崎智之

読んでいる人が束の間休憩できる椅子を用意してくれるような文章や居場所を作ってくれる文章というものがあるけれど、この本がそうだった。
弱さを見せることが恥で、先に見せた方が負けで淘汰されるような世界ではなくて、誰かが弱さを見せたからこそ、別の誰かもそれを見せられて、お互いのそれを補えるような優しさが広がる世界であったらいい。

 

弱さを先に見せた方が敗者になるのではなくてより良い世界への功労者となるような。
その方がふくよかで潤いのある世界にきっとなる。
弱さは豊かさの一つでもあるのだから。

 

 

 

『博物館の少女』富安陽子

古道具屋を営む両親を相次いでなくしたイカルは、ひょんなことからその目利きをかわれ、上野の博物館で助手として働き始め盗まれた黒手匣の行方を追うことに。
怪異といってもそんなにおどろおどろしくないし謎も割と本格的。

 

明治時代の少女が主人公で明治の風俗や上野あたりの景色が書かれてるというのも魅力だけど、イカルが身を寄せることになったお家の登勢の義理の息子が河鍋暁斎というのも心躍る設定だった。


河鍋暁斎の娘がイカルと同年代でそこの友情が書かれてるのもいいし、その子が暁斎の弟子で将来有望というのも良い!

すごく面白かったので続編希望!

 

 

『酒寄さんのぼる塾日記』酒寄希望

ぼる塾はお笑いトリオだと思われがちだけどトリオではなく、表に出ているのが3人なだけでいま育休中のメンバー酒寄希望さんもいれた4人組のお笑いカルテット。

そんな酒寄さんがぼる塾やぼる塾メンバーについて書いたこのエッセイが笑えて泣けてすごい良かった。

 

「笑って泣ける」なんて言い方されるものって斜に構えて見てしまいがちだけど、この本は本当にその言い方がぴったりだった。

 

お互いのちょっとずれたところを笑って柔らかく受け止めて、お互い思って思われて、足りないところを補い合って、そんな友情の両思いがあったかくてじんわり泣けてきてしまう。

 

ぼる塾のメンバーそれぞれのことが好きになって、その好きって気持ちでまたあたたかくなれる素敵な本でした。

 

 

 

『幻の女』ウイリアムアイリッシュ

上半期はミステリも何冊か読んだけど、これが一番面白かった!

妻殺しの容疑をかけられた男のアリバイ証人探しがメイン。

 

妻とデートするはずだったのにドタキャンされたので、その空いた穴を埋めてくれるデート相手を適当にナンパして数時間過ごしたので、犯行時間もその人といた。その人が証明してくれるはずなのに、いかんせん行きづりの相手なのでどこの誰かわからない。

2人で一緒にいるところを見ているはずのバーテンダーやレストランの店員も「いや男性ひとりでしたけど?」とか言い出す。

さぁどうする??という話。

 

面白かったし、かっこよかった。

誰が妻を殺したのかのフーダニットものなんだろうけど、とりあえず真犯人探しは脇に置いといてのアリバイ証人探しが滅法面白い。

文章が美麗秀麗でかっこいいし、表紙もかっこいい。

 

ミステリって一度気にいる作家さんがいるとその人ばかり追いかけてしまうから新規開拓って難しいけど、どんどん新しい作家さんにも挑戦していきたいなぁ。

ミステリってシリーズものが多いのが新規開拓しにくい原因でもあるけど、これは単発ものだし、おすすめです。

 

 

 

『N/A』年森瑛

1個前の記事で感想を書いたのでそちらを読んでほしいのですが、こちらもよかった。

 

自分の気持ちと相手の気持ちの狭間で言葉が揺れる感じや、何を言っても心もとなくてどの言葉を選んでも言いたいこと言ってあげたいことを言い得てないような、気持ちと言葉の乖離に感じるもどかしさが、そのまま言葉になっていた。

曖昧なものを曖昧なまま、もどかしいものをもどかしいままそのまま書けるって実はすごいことなんではないか。

 

 

 

bookbookpassepartout.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

こうしてベスト本を振り返ってみると、小説もあるし評論もエッセイもあるしなかなかバランスよくいい本に出会えた6ヶ月だったのかも。詩歌がないのがちょっと気になるけど。確かにあまり読めてなかったな。下半期はもうちょっと読もう。

下半期も読みたい本にどんどんチャレンジしていい本に出会えますように。