本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

第167回芥川賞受賞作予想!

もう7年も芥川賞候補作全部読みをしているけど、まともに受賞作予想というものをしたことがない。

外したら恥ずかしいからすぐ消えるインスタのストーリーで予想したり、ツイッターでちょろりと予想してみたり。

そんな風にこっそりこっそりとしたやり方でしか予想したことなかったけど、当たるとやっぱり嬉しい。そして当たらなくても案外楽しい。

過去にはこの作品とこの作品に受賞してほしい!と思った作品が2作品同時受賞したり(若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』と石井遊佳百年泥』)、この作品は受賞しそうでこの作品の受賞はなさそうと思った作品が2作品同時受賞したりして(高山羽根子首里の馬』と遠野遥『破局』)、予想を立てなければ味わえない喜びと驚きがあった。

 

今回はちゃんとしっかり予想を立てる!外れたら恥ずかしいしと思ってたけど、尊敬するプロの書評家さんだって外してるんだから恥ずかしくないぞ!と自分に言い聞かせ、これから私なりの予想を書いていきます。

 

その尊敬する書評家豊崎由美さん三宅香帆さんの予想YouTubeを見てから書いたので、ちょいちょいその話が出てくるけど、予想に影響は受けてないよ。

でもその2人の影響を受けて、私も予想ブログ書くぞ!となったので書くよ。

 

ということで今回の受賞作はこちらの5作品。

山下紘加『あくてえ』

小砂川チト『家庭用安心坑夫』

高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』

年森瑛『N/A』

鈴木涼美『ギフテッド』

 

候補者が全員女性であることが言及されがちだけど、豊崎さんも「候補者が全員男性作家だった回も珍しくなかったし、そんなに驚かない方がいい」と言っていて、それは本当にそうだなと。

候補作が発表された時に私が思い出したのは、アメリカの最高裁判事ルース・ベイダー・キングズバーグの「『最高裁判所に何人の女性判事がいれば十分か』と聞かれることがあります。『9人の定員がすべて女性で埋まれば十分』と答えました」という名言でした。

候補作全部が女性作家だ!と言われるのはこれが最初で最後になるといいな。

 

この候補作の順番は私が印象に残った順番でもあります。

何かを参照して書いたわけではないので、私が思い出した順。

まぁ上にある作品ほど最近読んだものだから単純に記憶が新鮮なのかもしれないけど、決してそれだけではない!

 

 

 

鈴木涼美『ギフテッド』

 

一番最初に読んだわけでもないのに、「あと一つなんだっけ…」となってようやく思い出せるものでした。

何だろう。よかったんだけど、他の作品ほどずば抜けていいものがないというか。

 

母親から酷い仕打ちを受けたのに拒絶することができず、それどころか何かしてあげたいとか喜ばせたいとか思ってしまう。

だけど過去に受けた仕打ちを忘れることなんてあり得ない。
そんな寄り添うことも突き放すこともない距離は身に覚えがあるもので、古傷を抉られる、痛いところを突いてくるのはよかった。

でもそういう作品は他にもあるしな…とあんまり印象に残らなかったので、これが一番受賞からは遠いかな…と思っていたのですがっ。

豊崎さんの解説を聞くと、「私が読み逃がしていたあのシーンのあのセリフはそんなに重要だったんですね!」と自分の読みの甘さ浅さに驚き、「『ギフテッド』というタイトルにはそんな意味があったんですね!すごい良い小説だったんだな…」と印象がガラリと変わって、ずば抜けてしまった。どうしましょう。

 

でも私の理解が浅いというの重々承知の上で、厚顔無恥で言わせてもらうと、人の解説聞かないとその良さに気づけない作品でもあったということだなぁと。

 

 

 

 

 

年森瑛『N/A』

 

はてなブログでも感想を長々と書いた作品で印象に残ってそうなのに、思い出したのは最後の方だった。

自分の内面をどうやって言葉にするか、相手を傷つけないように相手が受け取りやすいように、でも誰でも言えるような言葉じゃなくて私だからこそ言えるオリジナリティーのある言葉で伝えたい、という言葉にまつわる葛藤は私の好物だし、この作品は新人賞を受賞しているからその審査員の評価も読めるんだけど、そこでもすごい褒められている。

 

だけどこの作品が受賞するのは…なんかつまらないな…と。

このテーマならもう一段階深く書けたのでは、なんて思ってしまう。

わかるーー!とは思うんだけど、がつんと殴られたような衝撃がないというか。

私の中では共感だけで終わっちゃってるのかな。

 

 

 

 

 

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高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』

 

こちらもはてなブログで感想を書きました。

今回の候補者は高瀬さん以外みんな初の候補入りなんだけど、高瀬さんだけ2回目。前回の『水たまりで息をする』もすごい好きだったけど、こっちも好きだった。

デビュー作の『犬のかたちをしているもの』も印象的で、私は高瀬さんの書く不穏さが好きなのかもしれない。

 

普通のふりをしてる、善人のふりをしてる、そうしたこちら側の猫かぶりを剥がしにかかってくる不穏さ、居心地の悪さ。

そうしてこちらの思う「普通」に揺さぶりをかけてくる小説といえば村田沙耶香さんの小説が浮かんでくるけど、村田さんのそれのようにいきなり飛ばされるような突飛なものではなく、あくまで日常生活の域を出ない地続きの不穏さで、人のちょっとした異常とか悪意を書いてて、それが怖い。その怖さがいい。

 

三宅さんがツイッターで「仲の悪さの精度が高い小説」って言っていたけど、本当にそうで、仲が悪い理由この人とは相入れない嫌いだわっていう理由が精緻に書かれてた。そこから出てくる意地の悪さや悪意も説得力があって、「そんなこと考えちゃだめだよ!」なんていえないんですよね。

そんな風に正義を振りかざす方が、何も考えていないノーテンキな空っぽ人間に思えてしまう怖さ。意地悪やちょっとした悪意の説得力がすごかった。

この作品は受賞しそうだなぁと思うものの一つでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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小砂川チト『家庭用安心坑夫』

 

この作品は受賞するのか…?と思ってしまうんだけど、でも好きなんですよね。

候補作全部読みしていると、「好き!(でも受賞はなさそう…)」という作品がたまにあるんだけど、そうした作品は本当に受賞しない…。(木崎みつ子『コンジュジ』木村紅美『雪子さんの足音』)

だからこの作品もどうなんでしょう。

 

主人公は他の人には見えない幻が見えてしまっている、いわば信頼できない語り手。

こうした作品は過去の候補作や受賞作にもあって、それこそ木崎みつ子さんの『コンジュジ』もそうだったし、今村夏子さんの『むらさきスカートの女』もそうだった。

 

この信頼できない安心できないっていうところが好きなんだろうなぁ。

どこに連れていかれるのかわからないシュールさ、その戸惑いがいいのかもしれない。

 

三宅さんの解説を聞くまで気づかなかったけど、こうしたシュールリアリズムの小説は5年前10年前の候補作や受賞作にいっぱいあって、石井遊佳百年泥本谷有希子異類婚姻譚』がそうだった。

 

そう考えると『百年泥』『コンジュジ』そしてこの『家庭用安心坑夫』が好きな私は、信頼できない語り手のシュールレアリズムが好きなんだな。

 

主人公は切迫してて切実なのに見てるこっちはそれをどこかコミカルに感じてしまうのもシュールだったし、人並みにうまくできないと嘆く主人公に共感しつつもどこに連れていかれるかわからないまま読んだ先で最後の最後、思ってもいないところに連れていかれ、がつんと殴られたような衝撃もあったし。

好きです、この作品。

 

 

 

 

 

 

 

山下紘加『あくてえ』

 

この作品の読後が一番辛かった。親子の話、母娘の話はどの話も辛いものだけど、『ギフテッド』『家庭用安心坑夫』の何倍も重かった。

 

主人公はもうすぐ二十歳になろうかという女の子で、母親と祖母との三人暮らし。

祖母の介護を2人でしているのだけど、その祖母は父方の祖母でつまり母と祖母に血の繋がりはない。でも父親は死んだわけではない。母と父は離婚して別居しているだけで生きている。

 

主人公ももうすぐ二十歳なんだしもう大人と言ってもいいんだけど、その主人公から見た大人たちが全く頼りにならないところが救いがなくて辛い。

 

周りに甘えられる大人がいない。

安心して身を委ねることができる大人がいない。

むしろ自分が大人を世話して庇護し教え諭さなきゃいけない。
家族を愛してはいるのかもしれないけど、愛だけでは精神的なケアの行動原理にはならない。

愛があるからこそ、辛くても投げ出すこと逃げ出すことができない、愛があるだけ立ち往生する。愛が邪魔になる。

機能不全家族とはこのことか!と思うほど救いがない。

 

この作品を読んで宇佐美りんさんっぽいなぁと思ったんだけど、宇佐美さんは『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞したので、母娘関係を書いた『かか』は受賞前だし『くるまの娘』は受賞後に書かれたものだし、意外と母娘の上手くいかなさや愛憎なんかを書いた作品は芥川賞になっていないのかな。

 

この作品を豊崎さんは介護小説としていて、三宅さんは母娘小説としていたのが2人の見方の違いが現れてて面白かった。これは世代の問題でもあるのか。

 

私は三宅さんと同じで母娘小説として読んでて、共感と衝撃だと共感しながら読んでたんだけど、その共感の一つ一つが重い拳で一発ずつ殴られているようで、がつんと殴られた衝撃ではないけど、共感で殴り倒されたような辛さでした。

 

なので一番印象に残ったものでもあるし、扱っているテーマも介護だったり母娘だったりで、受賞しそうなものだし、そのテーマの書き方も深くて重かったので、この作品が受賞作に一番近いのでは、と思います。

 

 

おわりに

 

豊崎さんの真似をして、候補作を本命、対抗、穴に分けると、

 

本命 山下紘加『あくてえ』

対抗 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』

穴  小砂川チト『家庭用安心坑夫』

 

です!!!

 

さあ、どうなるでしょうか。

私は楽しみな予定があると、その予定に遅刻する夢を見るのですが、今日は芥川賞直木賞解説発表ニコ生を見ようとログインを試みるも全くできず、このままでは発表に間に合わない!!と焦る夢を見ました。

どうなるかなぁ、しっかり準備を整えて発表を楽しみにしたいと思います。

 


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