世界に対する様々な言葉の束、つまりは物語をたくさん持っている人は、それだけ世界を豊かに眺めることができる。
物語を味わうことの効用は、世界を見ることの彩度を上げられることにもあるのです。
本を読んでまたは物語に触れて、「面白い!」「好き!」と感じても、それだけで終わらせることができない。
それ以上は何も浮かばなくて、それだけで終わらせるしかないこともあるけど、大抵はそれだけで終わらせられなくて、その作品の何が面白かったのか、どこがどう好きだったのか知りたくなって、それを誰かに話したくなる。
それはちょっと恋に似ている。
好きになったもののことは深く深く知りたいし、深く語りたい。誰かに話したいし聞いてほしい。
そうこうしてるうちに、自分が普段どういうところに目をつけて、どんなものを好むのかを知っていく。自分のこともわかっていく。
そんなところもちょっと似ている。
だけどそれは何も恋に限ったことではなくて、その対象がなんであれ、それに好意を抱いた時に湧き上がる感情や衝動だ。それはもしかしたら好意じゃなくて嫌悪かもしれないけど。
何かに嫌悪を抱いた時だって、なぜそれが嫌なのか、自分はどういう人間だからそれが嫌なのか深掘ってしまうものだけど。
嫌悪に関しては置いておくとして、大抵の場合は「面白い!」「好き!」となった時、もっと知りたい、深く知りたいと思うものだ。深く知ることによって、そのものとの関係も深くなって、ますます面白くなって好きになっていく。
渡辺祐真/スケザネ『物語のカギ 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』は物語の扉を開け、より深い関係を築くために役立つ鍵が満載だ。
視点を多く持つ、自分のできうる限りの勉強や人生を賭して迫っていく、精読多読両方をやる、誰を主語にしどの行動に注目しどの変化を軸にして自分だけの解釈をしてみる、物語が書かれた時代背景を知りそれが今どんな意味を持つかを考えてみる、等々。
どれも「面白い!」「好き!」の後、どこへ進めばいいかわからなくなった時にその道筋を示してくれるものばかり。
それぞれのカギについて詳しく解説してくれる中で、小説に限らず映画やアニメやドラマなど、たくさんの物語が参照されて、スケザネさんの物語愛が伝わってくる。
たくさんの「面白い!」「好き!」の先にこの本が出来上がったことが伝わってくる。
ここまで書いてきて気がついたことだけど、この本に書かれているカギは物語と深い関係を築くために役立つだけのものではなくて、誰かとの関係を築くためにも役立ちそうでもある。
誰かと深い関係を築くときには、その人を見る視点は多い方がいいし、ネガティブ・ケイパビリティだってめちゃめちゃ大事だし、その人が普段使う主語が何でどんな行動をするのかも見ていた方がいいし、その人がその人になるまでの背景だって知っていくものだし、それまでの人生を全てぶつけ合うようなものだ。
人はそれぞれその人固有の物語を持つという。
この物語のカギたちは、本との関係を深める時だけじゃなく、誰かとの関係を深める時にも、きっと役立つ。
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