たいていの場合、始まりは違っても過程は似ていて、結果はいつも同じものだから。ジェインはそう軽く結論を出して、しばらく
日常の中に浸って過ごした。その時までは、人生に違う種類の波が立つなんて全く想像もできなかった。
『アーモンド』で2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位を受賞し、第2作の『三十の反撃』でも2022年の本屋大賞翻訳部門第1位を受賞したソン・ウォンピョンが大人の恋愛小説を書いたいうので思わず飛びついた。
『アーモンド』も良かったけど、『三十の反撃』はもっと良くて、だから期待大で読み始めたけど、やっぱり良かった。
内容がいいのはもちろん、文章が綺麗でうっとりしてしまう。形容詞の使い方というか物事を形容する筆致が美しくて鮮やかでちょっと切なくて好き。
内容は4人の男女の恋愛もので、作者としては現実だったらあまり仲良くなれなかったと思う4人だそうだけど、私としては、誰かと関係は持ちつつ絶妙な距離感でどこか冷めているジェインと、心にしっかりと鍵をかけて誰とも関係を築くことのないホゲに肩入れしつつ読んだ。
私も現実だったら仲良くなれるかどうかはわからないけど。でもジェインだったら、そこそこいい距離感で友達やれる気がする。
様々な経験をして、恋愛パターンもわかるようになって、いつもの恋愛パターンだからうまくいかないことを知ってても、結局いつもと同じことをして同じ結果になる。
いつものパターンだからどうせうまくいかないとわかっているから、それを変えようとあえて真逆をいってもうまくいかない。
いい加減自分のこともわかるようになって、自分はこういう人間なんだと思っていても、ふと自分の知らなかった自分に出会うこともあって、だけどそれで新しい世界が開けてうまくいくかと思えばそうでもない。
知ってても知らなくてもなんにもならない。経験なんて役に立たない。
経験を重ねれば重ねるだけ無意味な傷が増えるだけのようだ。ある程度経験を重ねてしまった大人の停滞期。
でも同じに見えても全く同じ恋なんてないし、全く同じ傷なんてない。
それは同じようなものを重ねて重ねてそれを繰り返さないと気づかないことでもあるけど。
たくさん傷ついても諦めず、同じように見えるでもひとつずつ違う沢山の経験を重ねた先で、ふっと見える新しい自分がいて、新しい出会いがある。
沢山傷ついて乗り越えて、同じような日々を繰り返し、時に停滞してそれでも日々を重ねた先にある変わったものと変わらないもの。
大人の恋愛小説だったけど、大人の成長物語でもあった。
ソン・ウォンピョンは『アーモンド』ばかりが注目されていて『三十の反撃』もこの『プリズム』は目立ってないけど、どれもいいのでもっと読まれて欲しい。
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