彼が求めていたものは彼女の金だったらしいが、だからといって、結婚当初、彼女が好きでなかったというわけではないです。しかし、やがて彼女は恐ろしく退屈な女になったにちがいない。そして、正直なところ」と、ロジャーは公平な態度で、「それで彼を責めるわけにはいかないですね。他の点でどんなにきれいな女でも、年中、名誉だの公明正大などとまくし立てたら、ふつうの男は飽き飽きするに決まってますよ。
多重解決ミステリーというのに惹かれて手に取った。
事件が解決しないで終わるミステリーは、恩田陸の『ユージニア』を読んだけど、多重解決は初めて。いや『ユージニア』もこのジャンルなのか。
「多重解決」っていう時点でわかってもよかったはずなんだけど、難しかった…。
箱入りチョコレートがペンファーザー卿に届くんだけど、ペンファーザー卿はそれを近くにいたベンディックスにあげてしまう。ベンディックスはそれを家に持ち帰り妻と食べる。実はそれは毒入りチョコレートで、ベンディックスは少ししか食べなかったので一命を取り留めるけど、妻は沢山食べたので死んでしまう。
この事件を「犯罪研究会」のメンバー6人が1夜につき1人解いていくというお話。
毎夜毎夜推理が行われ、毎夜毎夜前夜の推理が否定されていくから、証言も増えていくし証拠の使われかたも変わっていくし、どんな根拠で前夜の推理が否定されるのかも理解しないといけないし、使われている要素、駒が多すぎて全部の動きが理解できなくてお手上げだった。
そもそもペンファーザーとベンディックスってどっちがどっちだったっけ、帰納法と演繹法ってどっちがどっちだったっけとわからなくなる私、文中に二重否定が入るとすぐに意味がわからなくなる私には楽しめるはずがないのであった…。
でも頭の良い人、色んな要素が蠢きあう中その動きを把握できる人は絶対に楽しいと思う。論理が緻密に積み上がる様が好きな人とか。
そう考えるとミステリーって論理的思考が好きな人が好きなのかも。
ミステリーとしてはそんな感想しか抱けなかったけど、一方で「すごいミソジニーですね」という感想を持った。
女性キャラクターがあんまりよろしく書かれていない。
女性に化学的なことがわかるはずはない、女性の嫉妬が動悸だ、お喋りな女、帽子のセンスがおかしい女、女は脊髄反射で女の味方をする、公明正大で口やかましい女etc
そう考えると昔のミステリーって女性の書き方が3パターンぐらいしかない気がする。いや女性だけに限らず、人物造形がみんな型にはまっているような。それでいて探偵役は変人に作れているような。
型にはまったキャラクターが色んな事件を起こすのが社会や人生の縮図にみえていいのだろうか。
最後の杉江松恋さんの解説を読むと、作者のアントニイ・バークリーは別の作品でも、フェミニズム論者から強い拒絶を受けていたそう。やはりな。そこにちゃんと触れてくれる杉江さんの好感度爆上がりである。
そしてバークリーが所属していたディテクション・クラブの脱退理由は、会長だったドロシー・L・セイヤーズが死去した後、自分ではなくアガサ・クリスティーが後任になったことに腹を立てたからだそう。クリスティーが女性だったからより腹を立てたのでは?と勘繰ってしまうエピソードだ。
これを見て読んだよ。