川野芽生さんの第二歌集。川野さんは小説家でもあり、デビュー作の『無垢なる花たちのためのユートピア』から大好き。
作中に一角獣がでてきたり、登場人物の名前が花の名前だったり、ファンタジーのような作風なんだけど、甘くてふわふわしたパステルカラーの夢みたいなものじゃなく、死の影や腐敗が漂うようなダークファンタジーのような作風が特徴。
そんな作風が短歌と合うのかどうなんだろうと思ってたけど、これが違和感ない。むしろ合う。川野さん独自の短歌になっている。
きみが天使と呼ぶ合成獣が眼窩より取り出す珊瑚 手触るなかれ
身のうちに水晶育ちゐるごとし初冬を骨ひからせて耐ふ
短歌って日本古来のもので日本独自の表現で、西洋のファンタジックな世界とは相反しそうだけど、現代短歌は普段目にしない言葉と言葉の組み合わせで、現実からの乖離を感じさせるシュールなものも多い。そのちょっとした浮遊感を見せる短歌の特性と川野さん独自の世界観がこんなふうな相性の良さをみせるとは。
この歌集を読んでるとファンタジーを作り出してるとか、作風がファンタジーなのではなく、もう川野さんがファンタジーであって、本当にファンタジーの住人なのではないかと思えてくる。
川野さんはロリータでもあるのか、そんなふうな雰囲気も感じるのだけど、そこも短歌に現れていて、それもすごく良かった。
少女期を生き延びてまたここで逢ふ アリスはルイス・キャロルを捨てて
ロ、リー、タ、とぼくらを呼んだ千の舌を灼いてまた名乗ろう、ロリータを
少女を未熟なもの、大人より劣るもの、大人の愛玩具とするのではなく、少女は少女として完成されていて、独立独歩のものであるという気概が感じられてとても好き。
私はどうやら根底に「舐めんなよ」という気迫が感じられるものが好きらしい。