
今回も一帖ずつ書いていくよー。重量級になったけど、これでも抑えたつもりだよー。
末摘花
源氏物語は古典的名作であるが故、もうネタバレとかそういう概念はないんだけど、「末摘花」の帖はネタバレなしで読みたかった…。
源氏物語を読むこと三回目にして、今更悔やまれる。
私が末摘花が不美人であることを知ったのは教育テレビの「にほんごであそぼう」みたいな番組でたんぽぽの二人が「光源氏だって末摘花みたいな不細工だって愛してくれたんだから」と話していた時。確かその時に、鼻が長くて先がちょっと長くて象みたいだってことも知った。今思えばそれは「末摘花」の帖の最大のネタバレである。(そして私もネタバレしている。ごめんなさい…)
光源氏は末摘花の噂を聞いて、和歌を送ったり訪ねていって話しかけたりするんだけど、全くの無反応。返歌もなければ返事もない。
といってもお高くとまってスルーをしているというわけではなくて、お高くとまっていたとしても当然返事をして然るべきで、冷たくあしらうにしてもそれを和歌にのせて態度に表すべきもの。そうした和歌のやりとりでお互いの教養の高さを推し量るんだけど、末摘花からの反応はなにもない。
この時点ですでに空気は怪しく、光源氏も訝しく思うも、一度関係を持ってしまったばかりに後戻りもできず、関係を続ける。
そして何度目かの逢瀬で、顔を見る機会を得、横目で伺うように盗み見、「どうして何もかもすっかり見てしまったのだろう」と後悔することになる。
ここまでの一連の流れを事前情報なしに読んでみたかった。
末摘花にまつわる情報の出し方が巧みで、読んでるうちにどんどん疑わしさが高まっていき、それが最高潮になった時に現れる、先がちょっと長く垂れ下がっている赤い鼻!
紫式部は本当にお話が上手だ。
紅葉賀
『神作家紫式部のありえない日々』で紫式部のBL好きなお友達小少将の君が大興奮した帖。
小少将の君は光源氏と頭中将が推しカプで、ニ人が青海波を舞ったり、源の典侍という色好みのおばあちゃんを間に挟んで三角関係のもつれを演じてみたりするシーンに悶えていた。
でもこの帖にはそれ以外にもBL的に味わえそうな箇所がいくつかある。紫式部は一体こういうシーンを何目的で誰に向けて書いていたのか…。
例えば、藤壺の兄で紫の上の父の兵部卿の宮とのシーン。光源氏は兵部卿の宮のことを、色っぽくてなよやかで自分が女になって付き合ったらさぞいいだろうと思い見ている。
兵部卿の宮も光源氏のことを、世にも素晴らしい女になって恋をしたいものだと思い見ている。
なんとも危うい雰囲気である。
他にも葵の上の父、光源氏からしたら舅の左大臣も、光源氏に石帯をあげたり服を着るのを手伝ったり甲斐甲斐しくお世話をしていて、なにやら艶っぽい。
紫式部はこうした男と男の危うい艶っぽいシーンを一体どういう気持ちで書いていたのだろうか。書いてて楽しいからなのか、女性読者へのサービスなのか、この帖が書かれた時期になれば源氏物語は女性だけでなく様々な貴族男性にも読まれていただろうにどう思っていたのだろうか。
一条天皇と彰子の夫婦は一体これをどんな思いで読んでいたのか…。
ただ「光源氏ってそれだけかっこいいんだねぇ」で終えていいのかこれらのシーンは。いいのか。そういうもんなのか。私の頭がBL仕様になってしまったのか。
花宴
紫式部ライバル関係書くのうますぎるよーー。
宴の最中にちょっと舞ってくれと言われ、断るのも忍びなくて、ちょっとだけゆるやかに舞う光源氏と、同じように促され、こんなこともあろうかと心づもりをしていたのか光源氏よりも少し念入りに舞う頭中将。
急に言われて準備してなかったけど、さらりと踊ってそれが見事な天才肌と、何があっても大丈夫なように準備をしていて念入りに踊ってそれがみごとな努力型。
そんなライバル関係今まで星の数ほど見てきたけど、千年前からあったのか。
光源氏のような天才肌はともすれば鼻について人から嫌われやすいけど、光源氏はその点世渡り上手。
後日、頭中将の父で光源氏の舅左大臣から、宴での舞を褒めらた時には、頭中将の舞は素晴らしくて後世の見本になっただろうし、左大臣が舞ったならそれこそ伝説になったでしょうね、などとさりげなく義兄弟と舅を褒め称える。上手い。
前の帖で甲斐甲斐しく光源氏のお世話をしていた左大臣のことだから有頂天になっただろう。
この帖は朧月夜初登場回でもある。
今まで朧月夜の良さがよくわかってなかったけど、だんだんわかってきたかも。
なんかこう、さらとしててノリがよくてイケイケなところがいい。
光源氏をあしらう手つきも他の姫たちのように、媚を感じさせることなく、さらりとしている。自己肯定感が高くてさらっとしてるところが女子校とかでモテそう。
葵
この帖は色んなことが起こりすぎている。葵の上と六条御息所の車争いや、葵の上に六条御息所の生霊が乗り移ったり、葵の上の出産と死、光源氏と紫の上の初夜だとか。
読んでる時は気づかないけど、読み終わってみると盛りだくさん。
なんでこんなに詰めたんだろう。
六条御息所が読者に「ああはなりたくない」と思われてるのって、生霊になって葵の上に取り憑いてしまったことだと思うんだけど、その生霊になるまでの過程をちゃんと知っていただきたい…。なりたくてなっているわけじゃないということはもっと知られて欲しい…。
六条御息所はもともと光源氏の1番ではない。心情的に1番なのは藤壺だし、立場的に正妻なのは葵の上で、他にも色んなところに女がいる。
それは光源氏の父親桐壺にもバレていて、「女に対しては、相手に恥をかかせないようにして、どの女たちも傷つけぬように公平におだやかに扱って、女の恨みを負うてはならない」ともっと六条御息所のことを考えるように怒られる始末。
それほどまでに六条御息所は恥をかかされ不公平に扱われているのに、この上さらに葵の上に子供が生まれたら、ますます会いに来なくなるだろうし、心も離れていくだろう、と憂いているのだ。せ、切ない。ただでさえこうなのにこの上更に…。
みんなもっと六条御息所のことを知って欲しい。生霊になった嫉妬深い女で終わらせないで…。
葵の上は出産後に亡くなってしまうのだが、その弔いを終えた後、葵の上の実家を去る時の左大臣との別れのシーンがしみじみと悲しい。
左大臣は頭中将や葵の上の父親で、紅葉賀の帖で光源氏の世話を甲斐甲斐しくしていた人物。
この時代は通い婚なので、妻の実家に夫が通うのだが、光源氏はあんまり通って来ない。だからこそたまに来た時には喜んで甲斐甲斐しくお世話などしていたのに、娘が死んでしまって、もう通ってくることもなくなる。縁が切れてしまう。
光源氏を見送って、彼が過ごした部屋に戻って「一日二日も源氏の君がお見えにならずお通いが途絶えがちでいらっしゃったのでさえ、いつもたまらなく切なくて、胸が痛んだものだったが、朝夕光がさしこむように思われた源氏の君というすばらしい光を失っては、これから先、どうして生き永らえることができようか」と号泣する左大臣。悲しい。
娘婿というかもうアイドルだったんだろうな。推しが突然引退発表をしたかのような絶望と虚無を感じてしまう。
賢木
桐壺が亡くなり、右大臣の勢力が増していくにつれ、藤壺の居場所がどんどんなくなる。
桐壺の次に帝になった朱雀帝は右大臣の孫で、桐壺に贔屓されてた藤壺を恨む弘徽殿の女御の子。なので特に強力なバックがいない藤壺は肩身が狭い。
そんな中で、朱雀帝の次に帝になるであろう冷泉は、桐壺と藤壺の子となっているけど、実は光源氏と藤壺の子で、それがバレたら大スキャンダルという秘密を抱えている。
そんな藤壺が哀れでならない。
一方光源氏は何をしているかというと、右大臣の子、朧月夜と密会を重ねている。
あれだけ愛しいと思っている藤壺が右大臣派のせいで肩身の狭い思いをしているのに、なぜ?と思ったけど、寂聴さんの解説によると、だからこそ右大臣の娘との情事には、光源氏にとって鼻を明かしてやるという快感があり、それがスパイスになっていたとのこと。唸るしかない。
今まで読んできた源氏物語の中では、この藤壺が1番光源氏のことを好きに思える。他の源氏物語ではもっと迷惑がっていて悲惨な感じだった。
だけど、この帖になるとさすがに迷惑そう。最大の恋のライバルだった桐壺が亡くなって勢いを増した光源氏に迫って来られた藤壺は体に不調を来たすし、出家にまで追いやられるし。
でもそれも寂聴さんの解説によると、心の底では光源氏を愛していたそう。そ、そうなのか。
花散里
私は花散里が源氏物語のヒロインの中で1番美味しいポジションなのではないかと思っている。
激しく求め合うこともないし、激しく求められることも求めることもない、淡々とした関係。
それでも光源氏には何かと頼られていて、役に立っている。
淡々とギブアンドテイクが成り立っている関係が、源氏物語の貴重な癒しパート。この短い帖も賢木と須磨という激動パートに挟まれていていることから、紫式部もきっとそういう役割を花散里に与えていたんだろうと思える。
