源氏物語の「松風」という帖は、都から遠く離れた明石に住んでいた姫君、明石の君が都に引っ越し、三年ぶりに光源氏と再会する帖だ。
明石の君の母、尼君も一緒に引っ越してきたので、久しぶりに会う尼君に対して光源氏は開口一番に「姫君をこんなに美しくお育て下さいましたのは、尼君の日頃のお勤行の功徳のおかげと、身にしみて有り難く存じ上げます」と言う。
その後に、長年住みなれた住居を捨てたことや、明石にひとり残された尼君の夫への心配が続くのだが、真っ先に述べられるのは、「娘を美しく育てた」ことへの感謝だ。
小学生ぐらいのころ、テレビのインタビューで「娘は母親の作品だから」と娘の前で答えていた母親がいて、それに対して母が「この人は正直ね」といっていたことを思い出した。
母親に「作品」という「物」扱いされたことに少しの嫌悪感を覚えたけど、どこかでそういうもんかとも思っていた気もする。
そんな母は兄が結婚する時、義姉の母に「娘さんをよくここまで育ててくださいました」的なことを言っていた。自分が言われたいことだとか自分の中のセオリーに沿って言ってるんだろうなと思った。言われた方は困ったように笑ってて、あっちのお母さんの方がいいなと思った。
友達の結婚式に出た時、友達の部活の顧問がスピーチで「良く躾されたお嬢さんだなと思いました」と言っていたのも思い出した。友達は目上の人に対する礼儀がしっかり身についている子で、確かにそうだなとは思ったんだけど。
男親が男親に「息子さんをこんなに立派に育て上げて下さいまして感謝します」とか「よく躾けられましたね」というだろうか。聞いたことがない。そんなことを言ったら侮辱になるのではないか。
それが娘だったら許される。そしてなぜか言われるのは男親ではなく女親、母親だ。
源氏物語「松風」を読んで、千年前からそうだったのか!とも思ったけど、そりゃそうだよねとも思い、これから何年経ってもその考えは消えないんだろうなと思う。
さすがに千年後は消えているといいけれど。