本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

42.『源氏物語 巻五』

光源氏が気持ち悪い!いや彼がそうなのは今に始まったことではなく、ずっとそうだったのがマックスに高まったというか。

今は亡き若かりし頃の恋人の娘の玉鬘に言い寄っているところもなかなかなのだが、マックスに気持ち悪いのが帖の題にもなっている蛍のエピソード。

光源氏と同じように玉鬘に懸想しているのが光源氏の弟である兵部卿だ。

 

「おびただしい光が突然見えたら、宮もお覗きになられるだろう。玉鬘の姫君をこのわたしの実の娘とお思いになっているだけで、こうまで熱心に言い寄られるのだろう。姫君の人柄や器量などが、これほど非の打ちどころもなく具わっていようとは、とても想像もお出来になるまい。実際、色ごとには熱心にちがいない宮のお心を、惑

わしてあげよう」

 

彼と玉鬘が几帳を隔てて対面しているシーンで、光源氏はその几帳をめくり蛍を放ち、その光によって玉鬘の顔を兵部卿にチラ見させる。そして玉鬘をチラ見する兵部卿チラ見される玉鬘を覗き見して楽しむ。

 

最悪だ性格が悪い。養女を覗かせて究極の覗き見趣味である。

女子更衣室に穴をあけて、それを除く男子除かれる女子を俯瞰で見て楽しむ管理人みたいな。

 

 

常夏

「全くこう暑い時はうんざりして、音楽の遊びなどもその気にならないし、かといって、何もせずに、なかなか日の暮れないのもまいってしまう。宮中にお仕えする若い人たちは、さぞ堪らないだろうね。宮中で機継も解かないあの固苦しさではね。せめて、ここでは気楽にくつろいで、近頃世間に起こったような事件で、少しは珍しくて睡気の覚めるようなことを聞かして下さい。」           

 

光源氏は今、太政大臣という最上位の官職についている。そんなものすごーく偉い地位にいて、だけど今は現役を退いている大御所に、「今宮中で起きてる面白い話をして俺の眠気を覚ましてよ」って言われるの怖い。不祥事を起こして休養中の大物芸人が自宅で開くすべらない話みたい。

 

そして相変わらず玉鬘を諦めていない。諦めていないどころか手に入れる算段を立てているのだが、その算段がとんでもない。

 

今のようにまだ男を知らない娘のうちこそ、靡かせるのはなかなかで、可哀そうでもあった。しかし、いったん結婚してしまえば、たとえ夫という関守が厳しく見張っていても、女も自然男女の情がわかりはじめてくれば、こちらでも痛々しがらずにすみ、自分の恋心を思う存分訴えて、相手にそれが通じたなら、どんなに人目が多くても忍び逢うのに支障はないだろう

 

男慣れしていない養女をまず結婚させて、男女の情をわからせたうえで、夫の目を掻い潜り自分の恋心を伝え、どうにかしようとしている。すごい。

 

 

篝火

玉鬘が養父光源氏実弟柏木との間に挟まれて身動き取れなくなっている心情が苦しい。

ちょっと離れたところで夕霧と柏木笛と筝を合奏している。それをきいた光源氏は自分の元へ二人を呼び寄せ、自分は和琴で合奏に参加する。その様子を玉鬘は御簾の中から見聞きしている。

 

御簾の中にいる玉鬘、外にいる実弟たち。兄弟は血が繋がっているとしらずに自分に懸想している。御簾の中に入ってこれる光源氏は血が繋がっていなくて自分に懸想している。

御簾の中の閉じられた世界で養父に苦しめられていると、外にいる実の家族のもとに行きたくなるが、兄弟に懸想をかけられている。中も外も苦しい。

 

 

野分

風がとても強く屏風を押し畳んでいるために、部屋の中が丸見えな日に、通りかかった夕霧が紫の上の姿を垣間見てしまう。

 

隙見している自分の顔にまで、どうしようもないほどその晴れやかさが映ってくるように思われます。紫の上の魅力にみちた美しさは、あたり一杯に、はなやかに匂いこぼれていて、たぐいまれなすばらしい御器量なのでした。

 

美しすぎてその美しさでこちらの顔が輝くってすごい。まさに太陽で私は月。

 

それから数日が経ち、朝に光源氏を訪ねた際、紫の上とのやり取りを聞くのだが、そのやりとりが、幼馴染で初恋の雲居の雁と引き裂かれている夕霧の立場からすると少々きつい。

 

「昔、若かった時だって、一度もあなたに味わわせたことのない。暁の別れですね。

今頃になって、経験なさるとは、さぞ辛いことでしょうね」

と、冗談をおっしゃって、しばらく話し合っていらっしゃるおふたりの御気配は、たいそう睦まじそうで好奇心をそそられる感じです。

 

光源氏と紫の上の仲睦まじい様子を聞いている夕霧は初恋の相手との仲を引き裂かれている。そのやり取りを聞いたあと、話の流れで夕霧は光源氏から、自分たちの仲を引き裂いた張本人である雲居の雁の父の頭中将は素晴らしい人だと光源氏が褒めているのを聞く。辛い。光源氏はわかっててやっているのか、天然なのか。

 

 

行幸

今はもう疎遠になってしまった光源氏と頭中将が再会し、ありし日の思い出に浸るシーンがきゅんとする。

ライバルでだけどギスギスしてるわけではなく、一緒に悪ふざけをしたこともある二人。あんなに良い関係だったのに偉くなった今では超えようと思えば超えられるけどそうもいかない微妙な距離ができてしまっている。

そんな二人が中年になって久しぶりに再会し、昔の思い出を語る。エモいというやつかもしれない。

でもこの二人の再会の影には玉鬘がいて、彼女は実は頭中将の娘だと知らせて彼女の処遇を相談するためのものでもある。

玉鬘の今の身の置き所のなさや苦しみを思うと、エモいだなんて言ってられない。

 

 

藤袴

玉鬘の杞憂がそのまま光源氏の生母桐壺更衣に起こったことですごい。

 

御奉公をして、もし、思いもかけず帝の御寵愛を受けたりする面倒なことにでもなり、中宮や女がそのことで、わたしをお疎みになったら、とても気まずい立場におかれるだろう。

 

思いもかけず帝のご寵愛を受けて、他の女御たちの反感や嫉妬をかい病んでしまったのが桐壺更衣だ。

もし玉鬘が宮仕えして冷泉帝に気に入られてご寵愛を受けたら。玉鬘が結婚しても自分の恋心を伝えて逢瀬を続けようとしてた光源氏との間に子供でもできてしまったら。またしても冷泉帝のような不義の子ができてしまったら、とか考えるだけでも恐ろしい。懲りてなさすぎる。

 

 

真木柱

後妻の方が身分が高くて肩身が狭くなり実家に帰る髭黒の大将の北の方(妻)。

後に、光源氏が自分より身分の高い三の宮と結婚して肩身が狭くなる紫の上への伏線のように感じる。でも紫の上には帰る実家がない。一人で耐えるしかない。切ない。紫の上の父は北の方の父でもあり二人は異母姉妹なんだけど。色々事情があって、紫の上は北の方みたいに後ろ盾がないのだ。

 

みんな光源氏と玉鬘の二人のことを、「なんかあの二人怪しくない…?」と感じているみたいだけど、それだけ勘がいい人たちなら、光源氏藤壺の密通ももっと勘づかれていたのではないか。光源氏藤壺の不義の子、冷泉帝は光源氏とそっくりだっていう描写もあるし。

 

 

梅枝

薫物合わせがあったり、書のことがあれこれ語られたりと、なかなか難しく興味が湧かない話題が長く続いたあとで、これまでずっと進展のなかった夕霧と雲居の雁の話に動きが。

この構成にグッとくる。

 

雲居の雁は夕霧一筋で夕霧みたいに他の殿方と文のやり取りとかしてなかったのだろうかと思わせるシーンが切ない。大丈夫ですか雲居の雁。夕霧結構浮気するタイプかもよ。

 

 

藤裏葉

夕霧と雲居の雁が遂に結ばれ、周りが祝福ムードになっているのが微笑ましい。

しかしやっぱり夕霧は雲居の雁一筋だったと思われているのがモヤっとする。夕霧だって他の女の子にちょっかいだしてたけど、軽くあしらわれてただけなんだよ。いいなと思った女の子に振られたから浮気できなかっただけなんだよーと思わないでもない。

この帖ではもう一組カップルが成立していて、それは明石の姫君と帝。明石の姫君が入内したのだ。お付きとして明石の君や女房たちも移り住むことになる。浮き足立つのは殿上人たちだ。

 

姫君はおごそかな威厳がおありで、誰も対抗出来ないのは言うまでもなく、奥ゆかしく優雅な雰囲気もえていらっしゃいます。

その上、どんな些細なことでも、明石の君が申し分なく上手に取り廻しておあげになりますので、殿上人なども、恋の張りあいどころとして、何よりの新しい場所が出来たと思っています。それぞれお仕えする女房たちに恋をしかけますと、そんな時の女房たちの対応のしかたまでも、明石の君は実にたしなみよく躾けてあるのでした。

 

恋のやり取りをそつなく見事にやってのける女たちが移り住んできて、楽しく遊べるぞーと浮き足立つ殿上人。近くに評判のいいキャバクラができた感じなのかな、と思ってしまった。