カルステン・ヘン『本と歩く人』を読んだ。なんだがめちゃくちゃ売れていて映画化もされた作品らしい。そりゃそうだよねっていう納得の一冊だった。
主人公のカールは書店員で、顧客が好きそうな本を家に届ける仕事をしている。毎日顧客の顔を浮かべながら一冊一冊丁寧に包み、その重さを感じながら店を出て、本と歩く毎日。
顧客は書店に行くことがない。だからこれはネットで本を買うのと同じことなのでは?と思うけど、カールと感想を話したり、AIではなくカールがリクエストに答えつつ次読む本を選んでくれる。そこがネットでポチるの違うのだろうか。でも書店でたくさんの本に囲まれているうちに、思ってもなかったような出会いをするというようなセレンディピティがない。
それでいいんだろうか。うーんなんかもやもやするなぁと思っていた時にシャシャという女の子が現れた。
この少女は毎日毎日広場を横切るカールが一体どこへ行くのか気になっていて、その好奇心のあまりカールの後をついてくるようになる。そしてカールが遠慮して踏み込まないような顧客の領域にもずんずん進む。
そうこうしているうちにカールはお客さんが本当に欲しいものをわかっていない!と、カールに内緒で選んだ本をカールの客に渡し始める。
そのシュシュが選んだ本が絶妙にずれていて面白い。
言葉遊びが好きな人に間違い探し集をプレゼントしたり、悲しい話を求めている人にジョーク集をあげたり。
一見的外れなようにも見えるけど、良いセレンディピティになりうるものだし、なかなか侮れない。
カールのように好きそうな本を教えてくれるのもいいけど、その「好きそう」から一歩踏み出せる本、固定化された日常に風穴があくような、楽しく乱してくれる本を教えてくれるのも嬉しい。
この本の配達サービスは、書店の経営難から廃止の危機にみまわれているんだけど、本好きの一人としてなくさないで欲しいという気持ちの他に、社会福祉サービスとしてめちゃくちゃ機能的でもあるから公的機関と連携してどうにか続けられないか?とも思った。
独居老人が孤立しないように民生委員がお宅訪問するのと一緒で、公的機関と連携した書店が本を届けてコミュニケーションを取ったり、時には読書会と称して外に出てきてもらって同じような境遇の人とおしゃべりする機会をもうけたりすると、なかなかいい福祉になるのでは。
インスタやXで「読書好きと繋がりたい」というハッシュタグをよくみかける。この小説の中ではカールとシャシャの届ける本が人と人を繋げる役目をしている。本を介して人と繋がりたい人はいるし本はその役割をきちんと果たすものだ。
高齢化社会だとか未婚率の上昇だとかで独居老人も増えるだろうし。なかなかいいサービスになるのでは。でもでも老人になると老眼で本読むの厳しかったりするのかな……。
