本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

63.『悪い血』&受賞予想

鈴木涼美『悪い血』を読んだ。今回最後の芥川賞候補作。

金原ひとみ『YABUNONAKA』に出てくるみたいな理解のある彼くんが出てきて、結局行き着くべき「しあわせ」とはそこなのか?みがあって興味深かった。

理解のある彼くんって白馬の王子様みたいに絶滅危惧種というかそれよりもそもそも存在しないペガサスとか、そんなものなのではないだろうか。

でも『悪い血』の主人公は理解ある彼くんに救われてるわけじゃなくて、理解あるからこそ苦しんでいる。自分のことを自分で責めているから、そのぶん人から許されていることもなかなか受け入れられない。結局同じ境遇にある自分と似たような人間に肯定されることで、自分を許し始める。ということはつまりそれって、自分で自分を許すしかないってことなのか。

 

もうひとつ思い浮かんだ金原ひとみ作品があって、それは『腹を空かせた勇者ども』という作品だ。金原さんはこの作品を「 この世に小説が存在していることを知らないような愛しい陽キャの小説」と言っていたけど、『悪い血』の主人公も特に小説は必要としていない人物だ。

父親が本を読む人で、子供の頃に父親から本を読み聞かされたり、子供でも読みやすそうな本を本棚の手に取れる位置に置いてもらったりしたけれど、結局本を読む大人にはならなかった。

だけど私は、この本を主人公のような本を読まない人にこそ、読んで欲しいし、本を読まないような人こそこの本を必要としているのではないかと思った。

 

 

 

ここからは芥川賞候補作全体の感想と受賞予想です。

今回の候補作は全体的に登場人物の「行き詰り」が書かれていたように思います。一番最初に読んだのが『ソリティアおじさんがいた頃』だったので、そこで出てきた「行き詰り」というワードに引っ張られたのかなと思ったのですが、『アンチ・グッドモーニング』は職場環境と不眠に行き詰っていたし、『丹心』のレン君は現地住民との交渉に行き詰まっていたし、あながち間違いではないかもしれません。

しかしそもそも小説って登場人物の行き詰りを書くものなので、なにも今回に限ったことではないのかもしれませんが、今回は特に行き詰り度が高めだったような気がしています。

 

あとはそれぞれの作品でパートナーが機能不全になっていたような。『アンチ・グッドモーニング』の夫婦も『ゾンビ回収婦』の夫婦も『悪い血』もお互いが支え合い打開策を見つけていくというよりも、打開策となるのは夫ではなく、ヤクルトレディのような女性だったり母親だったり友人だったりして、結局女は女によって救われるエンドしかないのかとなりました。『丹心』のパートナーは男と男で、先生とアシスタントでしたがこちらも展望が開けるような終わりではなかったですし。

 

今回の芥川賞候補作に共通するものは、「労働」「行き詰り」「女を救うのは女」なのかもしれません。

なかでも私は労働と行き詰りの書き方が好きだった『ゾンビ回収婦』と、女が女によって救われるシーンが一番好きだった『悪い血』の二作を受賞予想作としてあげたいと思います。

『悪い血』は二作受賞の二作目として受賞してほしいです。なぜなら本を読まない、主人公と似た境遇の人にとって救いの一作になりそうな気がするから。そういう人にこそ読まれるべき作品だと思うので、受賞してたくさんの人に知られてほしいと思います。

 

 

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