陛下は、御自分を空虚だと思っておられます。
際限もなく空虚だとおもっておられるところに、智者も勇者も入ることができます。そのあたりのつまらぬ智者よりも御自分は不智だと思っておられるし、そのあたりの力自慢程度の男よりも御自分は不勇だと思っておられるために、小智、小勇の者までもが陛下の空虚のなかで気楽に呼吸することができます。それを徳というのです
ちまちま読んでいた『項羽と劉邦』をやっと読み終えた。
三国志展を観に行くから、何か三国志のものを読みたいと思って読み始めたら、全然時代が違くて、全然三国志じゃなくて、自分の無知にがっかりしたんだけど、せっかくだし最後まで読もうと思って。
でも三国志じゃなくても、もともと中国史が好きなので面白かったです。
劉邦と対立している項羽はカリスマ性があって強くて百戦錬磨なリーダー。
それに比べて劉邦は負けてばかりいるし、野蛮で無作法でなんだかダメダメオーラが漂っている。
でも結局は劉邦の方が勝つし劉邦の部下の方がキャラが立っている面白い人ばかりだし、なんだか生き生きしている。
この物語は解説にあるように「人望とはなにかをめぐる明晰な考察の集大成」で、その「人望とはなにか」が最初に引用した部分でもあるんだろう。
でもそうなると項羽がちょっとかわいそうにも思えてくる…。
項羽だって生まれた時は同じように不智で不勇だったのを努力して克服したのかもしれないのに、なんの不智で不勇で努力もしなかった劉邦の方が人望があるなんて。
逆に項羽が生まれつき智者で勇者であったとしても、悲しい。
同じように生まれつき不智で不勇の劉備の方が人望があるなんて。
だからこそ、四面楚歌のシーンにはちょっうるっとしてしまった。
項羽の周りを取り巻いている漢軍が、項羽の国楚の歌を歌い出し、自分の国の兵が漢軍に大勢寝返ったことを知るというのがそのシーン。
出来事は劇的なのに、読み手の感情を揺さぶるような書き方ではなくて、でもだからこそ劇的さが際立っていて、項羽の絶望と諦念が伝わってくるいいシーンだった。
「短所は長所だ」なんて言うけれど、その言葉だけでは短所は長所になりえなくて、なんの努力もせずにその言葉に胡座をかいているようじゃだめなんでしょうね。
こういう短所があるからこそ、それをどう活かすのかを考えないといけないし、それをどう補うのか、そんな自分は誰と組んだら自分の良さも組んだ誰かの良さも引き立つのか考えないといけないし。
「短所は長所だ」っていってその言葉に安心して胡座をかいていたら、短所は短所のまま。
それ以前に自分の短所をまっすぐにきちんと把握するっていうのも意外と難しかったりするんですけど…。
だからこそ、劉邦の短所を指摘して、それの活用法を提示した張良がすごい。
項羽にも張良のような部下がいたら四面楚歌を聞くこともなかったのかなぁと思うとやっぱりちょっと悲しい。