本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『秘密』 ケイト・モートン

ケイト・モートン『秘密』を読んだ。 翻訳ミステリー大賞・読者賞を受賞し、ミステリ好きたちの間で話題となり、イギリスが舞台で母親の謎めいた過去を解き明かしていくというストーリーと、興味をそそられるポイントに溢れていて、前々から気になっていた作…

いろんなところで本を読んできた。

いろんなところで本を読んできた。 本と場所というのは記憶として相性がいい。 あの場所で本を読んでなかったら本のこと忘れてただろうし、本をあの場所で読んでなかったらあの場所のこと忘れてただろうな、と思う。 本を読んでいたから、覚えていられた空気…

『三美スーパースターズ最後のファンクラブ』パク・ミンギュ

どう見ても三位と四位が平凡な人生で、六位は弁明の余地がない最下位の人生に見える。それがプロの世界だ。平凡に暮らしていたら恥をかくのだし、そこそこ頑張っても恥をかくのは同じだ。できる限り、目ぇ回すほど頑張って初めて「やるだけのことはやってみ…

恋愛小説あれこれ

Twitterを見ていたら「幸せな恋愛小説を教えてください」という呟きが目に入ったので、ぼんやりと考えてみたところ、西加奈子『きいろいゾウ』橋本紡『ひかりをすくう』岩井俊二『ラヴレター』が浮かんできた。 でもよく考えるとそのどれもが「幸せな恋愛小…

本を勧める

友達に本を勧めるのは難しい。 この本はきっとあの子の悩みや傷に寄り添ってくれる本、理解してくれる本だなと思うんだけど、悩みを解決する傷を治療するってことは、まずその悩みや傷を直視して解体して分析しなきゃ始まらないから、だから人の心にズカズカ…

『さらさら流る』 柚木麻子

たとえその時は淀んだ汚い水でも、心がけ次第で、時間はかかっても自然の持つ力がいつか浄化してくれたのではないだろうか。先ほどの湧き水を思い浮かべると、その確信は強くなる。澱も淀みも光を浴びて、次々と沸き上がる力に押されて、さらさら流れていっ…

『キャッシュとディッシュ』岡崎祥久

俺みたいな暮らしだと、たった七年ぽっちじゃ。年齢はふえてるでしょうけど、誕生日ごとにちゃんと祝って一歳ずつ加齢するかんじじゃなくて、なんとなく、あいまいに経年変化です。というかまあ、経年劣化です。 叔父の遺品だった皿のようなものは、そこに入…

『消失の惑星』 ジュリア・フィリップス

離れていれば、誰でもよく見える。たまにしか会話をしなければ、相手が口にするどんな言葉も耳触りがいい。夫との電話が終わると、ナターシャはまた滑りはじめ、塀のそばにいる弟と、そのとなりで眼鏡を磨いてる母親の前を通り過ぎた。すぐそばにいる者を愛…

『人形』デュ・モーリア

幽霊とか怪奇現象とかそういうものじゃない怖い話、人間心理に蔓延る暗黒面を書いた怖い話好きだ。 よくいうイヤミスのようなものだけど、ミステリは特に必須でもなくて、でも日本のものじゃないのがいい。 海外文学でなくてはだめ。日本の厭な話とかそうい…

『「超」入門 失敗の本質』 鈴木博毅

大東亜戦争での日本軍の組織的な失敗を分析した『失敗の本質』をわかりやすくビジネスにも援用できるように解説した『「超」入門 失敗の本質』を読んだ。 この本の序章で作家の堺屋太一が東日本大震災を「第三の敗戦」と表現したとある。 第一の敗戦は幕末、…

『声をあげます』 チョン・セラン

韓国SF短編集チョン・セランの『声をあげます』を読んだ。 今が過去になって、その時の未来だったものが今になってしまえば、その時の今だった過去を批判するようなことはなんでも言えてしまう。 ある程度距離ができると冷静になって問題点を炙り出し批判す…