本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2020-01-01から1年間の記事一覧

『海と山のオムレツ』 カルミネ・アバーラ

ただ読むだけではなく、よい書物のページには本物の物語が大切にしまわれていることを理解していった。まるで、どんなときでもどんな所でも、蓋を開けさえすれば、酔いしれ愛でることのできる貴重な宝石箱のように。どの物語も僕の人生の一部であると同時に…

Wi-Fiと溶けゆく時間

うちにはWi-Fiがない。 折に触れては何度もWi-Fi欲しいな、という願望が浮かんでは沈んでいくんだけど、どうにも踏ん切りがつかない。 何度かプランを調べたこともあった。 住んでいるアパートがWi-Fiの工事かなんかをしたらしく、それに漬け込むかのごとく…

読書日記 クッキー缶とすっぴん

もくじ 秋物アウター干しまくり 『彼女の名前は』 クッキー缶とすっぴん 『暗闇にレンズ』 秋物アウター干しまくり 天気が良かったので秋物アウターやストールをたくさん干した。 カビ臭かったものがホカホカのお日様の匂いになっていく幸福感が好き。 午前…

読書日記

朝ベッドから抜け出せずにぼーっとしていると知らない番号からの着信。 知らない番号からかかってくるような心当たりもない。 一度無視。しかしもう一度鳴る電話。 出てみると間違い電話だった。 間違いだと伝えると、こっちの番号を教えてくれと言ってきた…

『あがない』倉数茂

「連中はつまらない人生だが金は持っている。たまたまいい時代に生まれたからだ。今、金があるのはそういう奴らばっかりだ。そうでない奴らは、よほど運がいいか特別なコネでもない限り、落ちるばっかりだ」眼差しがまっすぐにこちらに向かう。「おまえはい…

『フライデー・ブラック』 ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー

どんな理不尽なことにだって当事者なりの理はある。 傍目にはどんなに間違って狂ったものに見えても。 ひとつひとつの間違った小さな理が積み重なって大きな理不尽になっただけで、そこには当事者なりの理がある。 『フライデー・ブラック』巻頭の短編、「フ…

積ん読消化のち積む積む。

コロナウィルスの影響で図書館が休館になると知った私は、積ん読消化に励むことにしました。 図書館に行くとついつい上限いっぱいまで借りてしまって、返却期限までに借りた本を読むのでいっぱいいっぱいになってしまうため、積ん読はうずたかく積まれたまま…

『やがて海へと届く』 彩瀬まる

その苦しい苦しい大泣きの日が本当に来たとして、たとえば今の俺みたいなおせっかい野郎が現れて、苦しみをごまかしたり、薄めたり、そこから引き上げようとしていたら、きっとぶん殴りたくなる。俺はなにがこれほど苦しいのか、この苦しみがなぜ俺の人生に…

『下流志向』 内田樹

「不快」のカードを家庭内でいちばんたくさん切れるメンバーが、家庭内におけるリソースの配分や、決定に際しての発言権において優位に立つことができる。ですから、一家全員が「この家庭のメンバーであることから最大の不快、最大の不利益をこうむっている…

『きなりの雲』 石田千

あばらの浮いた裸をふたりにさらし、うつむきながら、ここまでと悟った。もういいじゃないかとからだに諭され、ようやく足のうらが、床とじぶんの湿度を感じる。 じろうくんも玲子さんも正直な人だ。正直が過ぎるのでびっくりする。二人を見ていると正直って…

読書日記 「蜘蛛の糸」

わたしが初めてハマった文豪は芥川龍之介で、確か小中学生の頃だった。 近所の本屋さんに通ってちょこちょこ新潮文庫の芥川龍之介作品を買い集めた思い出がある。 結構な数を揃えたはずなんだけど、一度本棚の整理をした時にもう興味薄れてしまったし読み返…

『パッチワーク・プラネット』 アン・タンラー

ひょっとして、善良な人というのは、単にほかの人より運がいい人間というだけのことじゃないのか?それは言い訳にならないのだろうか? 特別なことは何も起こらないような、日常を淡々と書いているような小説を無性に読みたくなる時がある。 私にとって西加…

『才女の運命 有名な男たちの陰で』 インデ・シュテファン

『才女の運命』という本を読んだ。 自身も音楽や科学の才能を持っているのに、同業者と結婚したことによって、徐々にその陰に埋もれていってしまう女性たちの評伝。 シューマンの妻、クララ・ヴィーク=シューマン。アインシュタインの妻、ミレヴァ・マリチ…

「明滅」 彩瀬まる

今村はなんだか拍子抜けした気分だった。こんな、あまりに個人的でどうしようもない感情を吐露して、自分は一体どんな華々しい返答を妻に期待していたのだろう。子供じみていると思いながらも、胸の一部が皺まみれになってしぼんでいくのを止められない。 こ…

読書日記 『キネマの神様』

原田マハの『キネマの神様』を読んだ。 あらすじはこう 39歳独身の歩は突然会社を辞めるが、折しも趣味は映画とギャンブルという父が倒れ、多額の借金が発覚した。ある日、父が雑誌「映友」に歩の文章を投稿したのをきっかけに歩は編集部に採用され、ひょん…

『アーモンド』 ソン・ウォンピョン

遠ければ遠いでできることはないと言って背を向け、近ければ近いで恐怖と不安があまりにも大きいと言って誰も立ち上がらなかった。ほとんどの人が、感じても行動せず、共感すると言いながら簡単に忘れた。 感じる、共感すると言うけれど、僕が思うに、それは…

『絵を見る技術』 秋田麻早子

この『ウルビーノのヴィーナス』を見たあとなら、解剖学的正確さより構成の見事さのほうが優先されるということがよく分かると思います。写実的に描く技術より、構図の設計のほうがずっと重要で、画家の腕の見せどころなのです。大抵の人は構図が立派なら多…

『線は、僕を描く』砥上裕將

僕は絵を描くことで気づかないうちに恢復していったのかもしれない。言葉はいつも考えに繋がって僕を無気力にさせたけど、絵は、水墨は、描くことで自分の考えの外側にある世界を教えてくれた、僕が何を感じているかを伝えてくれた メフィスト賞は森博嗣や辻…

『女たちのテロル』ブレイディみかこ

機を窺って耐え忍ぶなんて生ぬるい。独立させてくださいとお願いしたって駄目なんだ。勝手に独立すればいい。宣言してしまえばこっちのもんだ。誰も私たちを止められない。めでたい。気分がアガる。ロング・リヴ・マイ・インディペンデンス!万歳!万歳! ブ…

『さいはての家』彩瀬まる

野田さんの読み聞かせが始まって二ヶ月が経ち、だんだん考えることが変わってきた気がする。賢くなったとかではなく、自分が今なにを感じているのか、前よりもよくわかるようになった。漠然と体のどこかが痛い、と思っていただけだったのが、肘が痛い、お腹…

『今日は誰にも愛されたかった』

ベランダに見える範囲の春になら心をゆるして大丈夫 大嗣 春って外に出るとなんか人がワイワイしてて、はるのほうから無遠慮に押し寄せてくるイメージがあるんですけど、それが僕は馴染めないんですね。でも自分の家のベランダに出てそこから桜とか遠くに見…

1月読了おすすめ本

去年は365冊も本を読んだので、今年はもうちょっとだらだらゆっくり読んで行こうということで、1月読んだ本は17冊。 ゆっくり読もうと思ったもののやっぱり物足りない…。去年の1月は33冊も読んでるから物足りないのも確か。 それに本って1冊読むと次々に読み…

連作短編の面白さと物足りなさ。

今読んでいる前田愛『文学テクスト入門』に、小説を絵画を鑑賞するように読む読み方についてと、江戸時代は視聴覚メディア時代だったということが書かれていて、それを読んで葛飾北斎の富嶽三十六景って江戸時代の連作短編集じゃないか!と思った。 そんなに…

哲学と自己啓発本と漫画と筋トレと。

「哲学」って聞くとどんな印象を受けるでしょうか。 なんだかよくわからないことをよくわからない言葉でこねくり回しているイメージ?それともちょっと真面目で深い話をするだけで「哲学だねー」と茶化されるようなイメージ? どちらにせよあまりいいイメー…

村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』読解。

去年はフェミニズムやジェンダーに興味を持ち始めた年で、割とたくさん本を読んだけど、まだまだ知識が自分のものになってなかったり、自分の考えを話せるようにはなっていない。 そんな簡単にそうなれるとも思ってないけど、今年もフェミニズムに関しての本…

『ファン・ゴッホ 日本の夢に懸けた画家』

もう何年も前のことになるけれど、美術史の講義を受けている時、「芸術家のイメージは酒好き女好き。そのイメージはピカソからきている」という話を先生がしたのだけど、芸術家にそんなイメージを持ってなかったので、すごくびっくりしたことを今でも新鮮に…