本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

読書日記「技師の親指」

「やれやれ」と、水力技師はロンドンに戻る列車の座席に座ると、もの憂い顔で言った。「たいした仕事でしたよ!親指はなくすし。五十ギニーの報酬はもらえない。いったい何を得たと言えるでしょう?」 「経験ですよ」と、ホームズは笑いながら言った。「経験…

『項羽と劉邦』 司馬遼太郎

陛下は、御自分を空虚だと思っておられます。 際限もなく空虚だとおもっておられるところに、智者も勇者も入ることができます。そのあたりのつまらぬ智者よりも御自分は不智だと思っておられるし、そのあたりの力自慢程度の男よりも御自分は不勇だと思ってお…

『星の子』 今村夏子

宗教の自由を説く人は多いけれど、だいたいが「私は特定の宗教に属してるわけではないですが」という前置きをしている。その前置きがなかったなら、特定の宗教を信じていたら、説得力も誠実さも増すのにな、と聞く度に思う。全く別のものが見えていて、それ…

ヒーローアニメと『緋の河』、バラエティーとさくらももこ。

桜木紫乃さんの『緋の河』を読んだ。 桜木紫乃さんの作品を読むのは初めてだったので、好きになれるかどうかどきどきだったけど、これがもう。良かった。 カルーセル麻紀さんをモデルにした主人公が「あたしはあたしになる」と、自分が納得する自分自身を目…

『イジェアウェレへ フェミニスト宣言、15の提案』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

『イジェアウェレへ フェミニスト宣言、15の提案』は作者のチママンダが、女の子を出産した友達に、どうしたら「女だから」という理由でふりかかる、理不尽でマイナスな体験をさせずに子育てできる?と尋ねられたことをきっかけに出来た本。 チママンダ・ン…

読書日記 『わたしのいるところ』

彼女の頭には夢と計画が詰まっている。まだ世界が変えられると信じている。反抗する勇気があり、ここで自分の未来を築こうとしている。わたしはこの子を愛おしく感じているし、その根性をうらやましく思うところもある。と同時に、自分自身のことを考えて落…

読書日記 『緋色の習作』

三谷幸喜さん作・演出の舞台、「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」を観に行けることになったので、今月はホームズ作品読破が目標です。 三谷さんが日本を舞台にリメイクしたドラマ、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」も「アクロイド殺し」…

読書日記 誰かが信じているもの

小倉美惠子『オオカミの護符』を読んだ。 この本はオオカミ信仰、山岳信仰について、人々がどのように「おイヌ様」や「お山」に信仰してきたのか、どんな風に儀式が行われていたのか、生活にどんなふうに根差していたのかが書いてあるノンフィクション。 私…

読書日記『深呼吸の必要』

「遠く」というのは、ゆくことはできても、もどることのできないものだ。おとなのきみは、そのことを知っている。おとなのきみは、子どものきみにもう二どともどれないほど、遠くまできてしまったからだ。 子どものきみは、ある日ふと、もう誰からも「遠くへ…

『惨憺たる光』 ペク・スリン

「光」の持つ表裏と矛盾と魅惑。光の中で、ある人は癒しを得、ある人は心痛い現実に直面する。私たちが人に生まれた瞬間から、運命的に知っているもの。それは時に痛みであり、共感であり、懐かしさでもある。違うのは、それにいつ気付き、どう受け止めるか…

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ

「でも、多様性っていいことなんでしょ?」 「うん」 「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」 「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」 「楽じゃないものが、どうしていいの?」 「楽ばっか…