本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

読書日記 『わたしのいるところ』

彼女の頭には夢と計画が詰まっている。まだ世界が変えられると信じている。反抗する勇気があり、ここで自分の未来を築こうとしている。わたしはこの子を愛おしく感じているし、その根性をうらやましく思うところもある。と同時に、自分自身のことを考えて落胆してしまう。言い寄ってくる男の子たちの話や、笑いが止まらないおもしろいエピソードを聞きながら、不適格という感覚が拭えないでいる。わたしは笑うが、心は晴れない。その年頃のわたしは愛をまだ知らなかった。

 

今日読んだのは(比較するものではないのかもしれないけど)Twitterや各方面で色んな人に突き刺さる作品と大分話題になっていたルシア・ベルリンの『掃除婦のための手引き書』よりも大分私に突き刺さってきたジュンパ・ラヒリの『わたしのいるところ』。

 

この本はラヒリが自分の母国語ではない、イタリア語で書いた小説。それだからなのか、文体が少しシンプルであっさりしているような気もする。

 

でもそんなあっさりシンプルな文体だからといって、大味なわけでもなく、書かれていることは些細で細かなかけらたちだ。

 

どこにでもある、誰もが経験したことのある生活や日常の細部、その感情の機微が丁寧で親密な筆致で書かれているんだけど、これがもうびしびし刺さってくる。

もともと自分の中にあった経験だから、刺さってくるっていうのはおかしいのかもしれないけど、その表現がしっくりくるほどに、改めてその経験をするというか、少し古びてしまいつつある経験が新鮮になるというか。

 

例えば冒頭に引用した箇所では、キラキラ輝くリア充な高校生を見て、ちょうどその年頃の自分の全く冴えない、じみーな自分を思い出して恥ずかしくなったり情けなくなったりしたことを新鮮に思い出す。

 

または、仲の良かった友達の夫のことがどうしても好きになれなくて、抱えてしまうどうしようもない疑問だったり、誰に対して何に対して向けていいのかわからない怒りや憤りだったりを。

 

誰かと分かち合いたいとか、誰かにわかって欲しいとか思いもしなかったような気持ちや経験を、他の誰かの気持ちや経験として、不意打ちで目の前に突きつけられる。

あまりにも小さいものだから、忘れてしまうような細部だから、言い当てられると少し気恥ずかしい。

でもそんな細部だからこそ、わかってもらえると分かち合えると嬉しくて、その細部は意外と大事なものなんだって思わされる。

 

 

ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』の登場人物たちも孤独なひとたちだったけれど、私にはこちらのジュンパ・ラヒリ『わたしのいるところ』の孤独のディテールの方がよくわかる。

こっちもおんなじように話題になって欲しいし、読み比べてどっちが好きだったかを聞いたら、その人の孤独の形が見えてくるようで面白いだろうな。

わたしのいるところ (新潮クレスト・ブックス)

わたしのいるところ (新潮クレスト・ブックス)

  • 作者: ジュンパラヒリ,Jhumpa Lahiri,中嶋浩郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集