本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2023-01-01から1年間の記事一覧

【ネタバレ】『方舟』夕木春央

だいぶ遅ればせながら『方舟』を読んだ。 話題作の移り変わりが早いTwitterにおいては遥か昔にバズりにバズった本である。 「どんでん返し!」「とにかくオチがすごい!」「ネタバレされる前に読んで!」という感想に惹かれて読み、確かに衝撃の結末でネタバ…

『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しか出てこない』三宅香帆

「しょひょうか」と聞いて脳内で「書評家」と変換できる人はどれくらいだろう。本好きなら変換できるかもしれない。いや本好きでも、できない人もそれなりにいるだろう。そんなメジャーとはいえない書評、それを書く書評家だけど、私には好きな書評家、推し…

読書日記「謝肉祭(Carnaval)」

あいも変わらず村上春樹のことを考えている。 今日は『一人称単数』の中の「謝肉祭(Carnaval)」に出てくる男に対して物申したい。 この「謝肉祭(Carnaval)」という短編、「彼女は、これまで僕が知り合った中でもっとも醜い女性だったーーというのはおそ…

『街とその不確かな壁』村上春樹

村上春樹の作品には、女性との別れによる喪失を書くものが多くある。 『ノルウェイの森』もそのひとつで、この作品では女性との別れを他の女性で埋め、女性との別れで空いた穴を女性にケアしてもらうことでその傷を癒していたが、『街とその不確かな壁』では…

かつて挫折した村上春樹を読んでみたらちょっとハマった。

村上春樹は高校生の頃にデビュー作辺りの何冊かを読んだけど、良さがわからなかった。部活の同期と先輩が春樹作品について熱く語っているのを横目で見て、羨ましく思っていた。 でも村上春樹は、新作を出すたびに話題になるし、ハルキストと呼ばれるような熱…

読書日記『珠玉』

彩瀬まるさんの『珠玉』を読んだ。単行本で読んで、文庫化して読んだので読むのは再読になるんだけど、この作品はたくさんある彩瀬さんの作品の中で埋もれているような気がする。粒だっていないというか主張が強い方ではないというか。 好きなシーンも台詞も…

『君のクイズ』小川哲

本を読んでいると、本と私の経験が重なり合い「わかる!」と思う瞬間がある。そんな瞬間があると、本と深いところで繋がりあえたような、本と私が溶け合い、本の一部が私に私が本の一部になれたようで、深い感動を覚える。 こんな瞬間を増やしていくためにも…

『TRY48』中森明夫

中森明夫『TRY48』は寺山修司が令和の今も生きていたら、アイドルをプロデュースしたら、どんなアイドルになるのか?どんな活動をするか?史実の寺山と彼が巻き起こしたことをベースに、中森明夫が寺山を復活させ現代に解き放つ小説である。 「寺山修司」と…

読書日記『哲学者たちの天球』

『哲学者たちの天球』という、アリストテレス哲学がどのように広まっていったのか、どのように解釈されていたかということが書かれている本を読んだ。 ちょっと正直後半は難しすぎて返却期限までに読み終えることはできず、図書館に返してしまったのだけど、…

読書日記 「卒業の終わり」

私たちはずっとあそこにいた。生まれてからずっと同じ場所で暮らしていた私たちには、何かが過去になるという感覚はまだわからなかった。戻れない場所が、戻れない時があるという感覚がわからなかった。 あの頃の私たちに、思い出と言うべきものはまだひとつ…

佐藤厚志『荒地の家族』 〜想像力は人を救うのか〜

元は鬱蒼とした松林であった野を新しくつるりとした道路が切り裂いている。荒涼として寒々しく、無機質な海辺を雨が塗り込めて想像力を殺す。 『荒地の家族』の主人公坂井祐治は宮城県の亘理で生れ育ち、地元で一人植木業を営んでいる。震災時、自身も含め家…