本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

読書日記「謝肉祭(Carnaval)」

あいも変わらず村上春樹のことを考えている。

今日は『一人称単数』の中の「謝肉祭(Carnaval)」に出てくる男に対して物申したい。

 

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この「謝肉祭(Carnaval)」という短編、「彼女は、これまで僕が知り合った中でもっとも醜い女性だったーーというのはおそらく公正な表現ではないだろう。彼女より醜い容貌を持つ女性は、実際には他にたくさんいたはずだから。」という書き出しだけでもう胸のざわざわが収まらない。

 

語り手の男は大学生の時にダブルデートをしたのだが、相手側の女の1人が「醜いとまでは言わないけれど、あまり容姿がぱっとしない女の子」だった。ダブルデートの途中で1組ずつに分かれて、普通のデートをすることになり、語り手の男はその容姿がぱっとしない女の子と公園を散歩して喫茶店でコーヒーを飲んだ。

後日語り手をダブルデートに誘ったもう一人の男に「このあいだは、あんなブスな女の子を連れてきて悪かったな」と謝られる。それを聞いた語り手が考えたこと、しようとしたことがひどい。

 

友人にそのように謝られたあと、彼女に電話してみなくてはと僕は思った。彼女はたしかにきれいな女の子ではなかった。でもただのブスな女の子でもなかった。その間にはちょっとした違いがある。そしてそういう違いを僕はそのままにしておきたくなかった。それは僕にとっては、どう言えばいいのだろう。けっこう大事な問題だった。気持ちの問題だ。彼女を恋人にすることはないかもしれない。たぶんないだろう。でももう一度会って話をしてもいい。どんな話をすればいいのかわからないが、何か話せることはあるはずだ。彼女をただのブスな女の子にしておかないためだけにも。

 

おい。やめろ。やめておけ!!

ただのブスな女の子にしておかないためなら、「ブスな女の子連れてきてごめん」と言ってきた友人に「いやいい子だったよ」とでも言えばよくないですか。それをなぜわざわざ女の子に電話をする必要が?「いい子だったよ」と友人に言えないっていうのは、友人に「お前あんなブスのこと気に入ったのww」と思われたくないからだよね。100歩譲って、女の子が自分のことを「私はブスだから…」と言ってたならその子に電話して「ただのブスじゃないよ」と言うのならわかるけどその女の子は別にそんなこと言ってないし。いや言ってたとしても、それでも余計なお世話すぎると思うけど。

 

なぜわざわざ電話しようとするのかわからない。第一印象で「ブスだな」と思ったけど、2人で話してみたら「いい子だな」という印象に変わり、でも友人に「あんなブス」と言われたから「あれ?やっぱりただのブスなのか?いや違うよね?電話して確認しよう!」ということなのかっ。

しかも恋人にすることはないだろうとか言ってるーー。恋人に「なる」ではない、恋人に「する」って言い方が上から目線ーー。なんだそれは。ただのブスではないけど、ブスはブスに変わりないから恋人には「する」ことはないってことなんじゃないのかおい。

 

結局その女の子の電話番号が書かれたメモを失くしたから、電話はかけなかったのだけど、本当に失くしてよかったよ。そしてこの人、電話番号も友人に聞けば教えてくれるだろうけど、「返ってくるであろう反応が面倒で、彼に聞く気にはどうしてもなれなかった」とか言ってるよ。やっぱり「お前あんなブスのこと気に入ったのww」と思われたくないからだよねそうだよね。

この人、本当に余計なお世話すぎるっ。

 

むむむ村上春樹いけすかない。いや村上春樹がいけすかないのではなく、そこに出てくる男がいけすかないのだが。

村上作品の男たちは私の「なんか嫌い」や「ちょっとイヤ」を刺激し、「なんなんだこいつは」とほどよく思わせる。

ものすごい嫌悪感だったり生理的に無理な気持ち悪さではなく、ちょっとした違和感、読み解きたくなる嫌悪感。

 

自分が何が好きなのか、何を良いと思うのかは、よく知っている。自分がどういうものが好きなのかはわかってる。

でもその逆はあんまり知らない。何が嫌いなのか、どういうものが嫌いなのか、なぜそう思うのかを掘り下げたことは今まであんまりなかった。

村上春樹の作品にはそういったものがちょくちょく出てきて、その嫌悪感を読み解きたくなる。言語化して突っ込みたくなる。そんなところも読みどころになっていて面白い。

 

ポジティブな気持ちを因数分解して読み解くことは自分の価値観や感覚の輪郭を知ることだけど、ネガティブな気持ちの因数分解も同じことだ。どちらも自分がどんな人間なのか知ることにつながる。そして「好き」だけじゃなく、ちゃんと「嫌い」も知ることは、自分という人間が底上げされたり重みが増すような気がする。

 

自分という人間の器やその輪郭を知ることは、なんだか楽しい。

 

 

 

 

 

 

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