本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

食べてみなけりゃわからない。

ふとした時に浮かんでくる映画の台詞や、 小説の台詞ってありませんか?
私にとってその中のひとつが

 

「人生はチョコレートの箱のようなものよ。開けてみるまで中身はわからないわ」

 

 

というもの。

 

この台詞を初めて聞いた時私は、 チョコの中にゼリーが入ってるチョコを食べた時のがっかり感を思い出しました。


チョコの中に美味しいチョコが入っていることを期待して食べたのに、チョコを口に入れたはずなのにゼリー…というがっかり。


それはさておき。


最近またその台詞が頭の中に浮かんだのです。

しかしがっかりした気持ちになりながら浮かんだのではなく、次はどんな味だろうと、わくわくした気持ちで。

『短篇小説日和 英国異色傑作選』というアンソロジーを読みながら。


短編集っていいですよね。

短編集にも色々ありますが、私が好きなのは色んな話が詰まっていて、それぞれ味わいが異なっているもの。

ひとつひとつの話も中身がぎゅっと詰まっていて、 短い時間でもどっぷりとその世界を味わえるもの。そんな短編集が好きです。


好きな作家さんの短編集もいいのですが、 色んな作家さんの短編によって編まれたアンソロジーというのがまた贅沢でいい。
でも自分の中で、短編同士ががたがたしていて、 この話は好きだけど、あっちの話はあんまり、 と思うようなアンソロジーだと読み返そうという気がわかない。


そんな中で何度も読み返したいと思うアンソロジーに出会えることは至福です。


というわけで今日はそんなアンソロジーのお話を。

 

タイトル通り異色な短編が詰まった『短篇小説日和 英国異色傑作選』

海外文学を読み慣れていない方にもおすすめ『昨日のように遠い日』

小説だけではなく短歌もぜひ『食器と食パンとペン』、の3冊です。

 

目次

 

『短篇小説日和 英国異色傑作選』


このアンソロジーに収録されている短編は、 全てイギリスのもので『氷』のアンナ・カヴァン、『 大いなる遺産』のチャールズ・ディケンズ、と私も聞いたことのある有名作家の作品もありますが、 聞いたことのない作家の作品がほとんど。


私が知らないだけかと思いきや、 日本ではあまり知られてない作家や、 そもそも作品数が少ない作家の作品のようで、 有名作家の小品からからマイナー作家の良作まで網羅している贅沢なアンソロジーです。

 

私が思い浮かべた台詞の通り、 チョコレートの箱のようなアンソロジー


苦い味のもの、微糖のもの、ぎょっとする味のするもの、 何を食べたんだ私は?と思うもの。

(甘さはあまり感じない…だって異色傑作選だもの)


ジャンルでいうと、幻想、怪奇、ユーモア、 いかにもイギリス小説だなぁと思うもの。

 

他の作家で例えると、アガサ・クリスティっぽいもの、 江戸川乱歩っぽいもの、稲垣足穂っぽいものなどと、口に入れるまでどんな味がするのかわからない短篇ばかり。

 

全体のトーンは同じなのに、それぞれ全く違う味わいが楽しめる短編集です。

 

これだけの短編を集めてひとつのアンソロジーにまとめる西崎さんのセレクトセンスがすごい。
こういう方を造詣が深いというのいうのでしょうね。

 

西崎さんのプロフィールには「アンソロジスト」とあって、 そんな肩書きがあると初めて知りましたが、 短編好きとしては憧れの肩書きです。

 

 

短篇小説日和―英国異色傑作選 (ちくま文庫)

短篇小説日和―英国異色傑作選 (ちくま文庫)

 

 

 

『昨日のように遠い日』

『短篇小説日和 英国異色傑作選』はタイトルに「異色」とあるように、海外文学を読み慣れていない方にはちょっと取っつきにくいかなぁと思いましてこちらを。

 

こちらも海外文学なのですが、少年少女をテーマにしたアンソロジーです。

 

生まれた国は違くても、誰もが昔は子供だった経験を持っていますよね。

なので子供が主人公で子供の目線で書かれているこの本は読みやすいと思います。

 

誰もが子供時代を持っているけれど、子供の感受性をそのまま持って大人になるのはとても難しいこと。

同じものを見ても、もう同じように心が動かない。

 

でも確かにこの本に書かれている子供たちが見たもの聞いたものと同じものを経験したことが自分にもあったし、同じことを感じたことがあったと、大人になって改めて子供の感受性のまま追体験ができますし、大人になった今だからこそわかる子供の世界の清らかさに触れることができます。

 

子供の世界は清らかで神聖な感じがして、子供の頃の何かや何処かは大人が簡単に触れてはいけないような、入っていってはいけないような、神聖なところがあるように思います。でもその神聖さは大人にならないとわからないから、大人になってみるのもいいな、と気付かせてくれもします。

 

子供の感受性になって子供の世界を味わうこともできるし、大人の目線で子供の清らかな世界に胸を打つこともできる、そんなアンソロジーです。

 

 私はこの本を江國香織さんの書評を読んで知ったのですが、その書評が素晴らしかったのです。

 

例えばここの部分とか。

 

『昨日のように遠い日』は、めったにないほどいい気配を放っている本で、手にとったとき、私はほとんどびっくりした。たとえば焼きたてのパンや、上等な羽根のいっぱい詰まった羽根布団を前にしたときとおなじで、食べなくても、眠らなくてもわかることというのがあるのだ。見ただけで、匂いをかいだだけで、触れただけでわかること。

 

本を焼きたてのパンや上等な羽根のいっぱい詰まった羽根布団に例える感受性が大好きです。

江國さんのエッセイとしても楽しめる書評も合わせて読んでみてください。

 

books.bunshun.jp

しかしこの本現在入手困難なようです…どこかで見かけたらぜひ。

 

 

昨日のように遠い日―少女少年小説選

昨日のように遠い日―少女少年小説選

 

 

 

 

『食器と食パンとペン』

普段短歌は読まれるでしょうか。小説に比べて詩や俳句、短歌は読む人が少ないジャンルかもしれません。

 

しかし文字量が少ないとはいえ、ページがすかすかでほとんど真っ白とはいえ、そこに込められた情報量、心の動き、胸に蘇る景色は小説にも負けない、むしろ小説では表現しきれないような独自の素晴らしさがあります。

 

だけど読んだことのない人には何処から手を出したらいいのかわからないと思います。

文字少なくてすかすかじゃない?高くない?ページほとんど白なのに?と思われる方もいらっしゃるでしょう。おそらく短歌に触れる前の私のように…。

 

そんな方におすすめなのが短歌のアンソロジー『食器と食パンとペン』です。

 

この本は、イラストレーターの安福望さんが選んだ短歌と、その短歌の世界観を絵にしたもので構成されています。

安福さんの選んだ短歌もどれも素晴らしくて歌集としても楽しめるますし、安福さんの絵もとても素晴らしいので画集としても楽しめます。

 

短歌のすごいところは、短歌を詠んだ人の見た光景をそのまま一対一で直接手渡されているような感覚があるところです。

 

小説でもそれはできると思いますが、短歌はそれをなんの助走もなく、たった31文字でやってのけてしまうところ。

 

一瞬で読み終わるのに、その一瞬でざらりとしたり、洗われたようになったり、一瞬で目の前の景色が鮮やかに変わるんです。

 

それぞれに短歌を読んで浮かぶ風景は違うとは思うのですが、自分ではない人がどんなイメージを思い浮かべたのか知ることはできないですよね。

でもこの本は安福さんの中に浮かび上がったイメージを見ることができるのです。安福さんの絵がまた素敵なのです。

 

そして贅沢なのが一首につき一つの絵が付いているところ。

というのはこの本が安福さんが一日一首短歌を選んで絵にしたブログをまとめたものなので、一首につき一つの絵という構成になっています。

 

好きな短歌ばかり好きな絵ばかりなので絞るのは難しいのですが、中でも心に残っているのは

林檎からうさぎを創り出すような小さな魔法に生かされている

 

戻れないことは承知で人生の至る所にパン屑を撒く

 

寝た者から順に明日を配るから各自わくわくしておくように

の3首です。

 

みなさんの中にはどんなイメージが浮かんだでしょうか。

ぜひ一度安福さんの絵も見てみてください。

 

 

食器と食パンとペン わたしの好きな短歌

食器と食パンとペン わたしの好きな短歌

 

 

 

小説のアンソロジー2つ短歌のアンソロジー1つをご紹介しましたが、

他にも詩のアンソロジー『ポケット詩集』も好きですし、

岸本佐知子編の『変愛小説集』も好きですし、

落合恵子編の『愛について』(詩も小説の一説もいわさきちひろの画も入っている豪華なアンソロジー)も好きです。

あ、村上春樹編の『恋しくて』も。

 

アンソロジーっていいですよね。

これからもチョコかと思ったらゼリーというがっかりを恐れず果敢に手を伸ばして行きたいです。

 

 

ポケット詩集

ポケット詩集

 

 

 

 

変愛小説集 (講談社文庫)

変愛小説集 (講談社文庫)