本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

本屋大賞と三浦しをんさん

 

 

毎年楽しみにしている本屋大賞のノミネート作品が先日発表されました。

私は本屋大賞を取るようなメジャーな作品は普段あまり読まないのですが、去年は意識して話題の本や人気作家さんの本を読むようにしていたので、今回のノミネート作品では4冊読んだことのある作品が。

これは私にとって異例。

その中で特に印象深かったものに、以前このブログの「この小説、楽しく読んでいいの?」という記事でご紹介した深緑野分さんの『ベルリンは晴れているか』もありましたが、今回ご紹介するのは三浦しをんさんの『愛なき世界』です。

 

 

 

愛なき世界

 

ただ、私にとって一生に一度の恋の相手が、人間ではなく「植物の研究」であるだけ。たとえ失敗に終わったからといって、全力で愛した記憶も気持ちも消えることはないはずだ。自分に備わった情熱と愛のすべてをかけて、植物の研究に恋をしているから、それがいまにも終わりそうなことが、こんなにも苦しくてつらくてならないんだ。


大学で植物の研究をする本村に藤丸は恋をするけれど、彼女は植物にしか眼中にない。それでも藤丸は諦めきれず、植物に恋をする本村にますます恋をする。


コンビニ人間』の主人公や『愛なき世界』の本村のように、これがあれば生きていける!っていうほど好きなものがあったら。盲目的になれたら。と、ちょっと羨ましい。
私にはこれしかない!と思えるものがあってその「これ」がそばにあってそれで幸せで、悩むことはあれどこれへの愛は変わらなくて。


しかし藤丸。いいやつだ。
植物研究に没頭するあまりメイクも料理もせず変なTシャツを着ていて、モテファッションだのモテテクだのとは対極に位置する本村を好きになるなんて。そんな本村の植物研究に没頭する姿が好きだなんて。泣ける。


誰かが何かを好きな姿や何かに熱中する姿を美しいと思って恋をするって、真っ当な恋というか正しい恋というか充分あり得る恋の落ち方だ。
たとえその人の「好き」が自分に向けられることはなくても。その人の「好き」が好き。
もしかしたら、その人の「好き」が好きな自分のことを「好き」になってくれる人が現れたりしたりなんかするかもしれない。
そんな自分を好きっていってくれる人のことを好きっていう人がまたいたりして。

みんなみんな片思いかもしれないけど、食物連鎖のように、そうやって好きの連鎖がずーーっと続いていて「好き」で溢れる世界だったら、と思うとちょっと泣けてくる。

 

 

  

愛なき世界 (単行本)

愛なき世界 (単行本)

 

 

 

三浦しをんさんと本屋大賞

 

今回初めて調べてみたけれど、三浦しをんさんは本屋大賞ノミネート常連さんのようです。

 

まず『私が語り始めた彼は』で2005年第2回本屋大賞に初ノミネート。その時の大賞は恩田陸さんの『夜のピクニック』で、しをんさんは9位。

 

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

 

 

 

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

 

 

そのあと2007年第四回本屋大賞に『風が強く吹いている』でノミネート。この時の大賞は佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』でしをんさんは3位。

 (どちらも青春陸上小説…)

 

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

 

 

 

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)

 

 

その後ノミネートされるのは2010年第7回『神去なあなあ日常』で結果は4位。この時の大賞は冲方丁さんの『天地明察』。

 

 

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

 

 

 

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

 

 

そして次にノミネートされた『舟を編む』で2012年第9回本屋大賞を受賞されました。

 

 

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

 

 

すごい。まさかこんなにノミネートされているとは。

正直三浦しをんさんは「毎回必ず新作をチェックします!」という作家さんではないのですが、なんか気になる作家さん。好きといえば好き。

読んでいない作品の方が多いけど、何故かここに書いた過去のノミネート作品は全部読んでる…。

 

『風が強く吹いている』は終盤をお風呂の中で読んだのですが、ページをめくる手が止まらず、やめどきがわからず、何度も追い炊きを繰り返し読了した思い出深い本だし、大賞を受賞した『舟を編む』はよく心と言葉が互いに意思疎通ができずもやもやを抱いてしまう私に力強い言葉をくれた本だし、お仕事小説が得意ジャンルのしをんさんにはいつも普段見ることができない景色を見せてくれる作家さんです。

なので何かと気になる作家さん。

 

今回調べてみて初めてこんなにノミネートされていたんだなと気づいたのですが、ここで思い出したのは三浦しをんさんがご自身の本屋大賞受賞の知らせを聞いた時のエピソード。

しをんさんはその時、クラフト・エヴィング商會のご夫婦と温泉旅行の最中だったそうで、お風呂から上がったしをんさんがぼぉっとしているので「どうしたの?」と聞いたら「本屋大賞を受賞しました」と言ったっていうエピソード。

クラフト・エヴィング商會も好きなので私の中で印象深いエピソードでした。

そりゃこんなにノミネートされた後の受賞だったら放心だってしますよね。

ちなみにこの旅行の時、灯りが乏しいお風呂だったので片手に懐中電灯片手に本というスタイルで、そうまでしてお風呂入りながら本を読んだってエピソードも好きです。

(ここで書いたエピソードは、いつかのダ・ヴィンチでの三浦しをんさん特集出典…のはず…)

 

三浦しをんさんは今回の本屋大賞で『舟を編む』以来のノミネート。

前回は文系お仕事小説でしたが、今回は理系お仕事小説。

『愛なき世界』で2度目の大賞受賞なるでしょうか。

発表の日が楽しみです!