本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

読書日記 『ある男』

現在が、過去の結果だというのは事実だろう。つまり、現在、誰かを愛し得るのは、その人をそのようにした過去のお陰だ。

 

人に語られるのは、その過去のすべてではないし、意図的かどうかはともかく、言葉で説明された過去は過去そのものじゃない。それが、真実の過去と異なっていたなら、その愛は間違ったものなのだろうか?意図的な嘘だったなら、すべては台なしになるのか?それとも、そこから新しい愛が始まるのか?……

 

過去が現在をつくっている。

現在のあなたを愛することは過去を愛することと同義かもしれない。

けれどそれは言葉で語りえる経歴のような過去ではなくて、もっと言葉にできない、あなたの現在になんとなく空気のように漂っている過去。

だからあなたが語った言葉にできる過去が嘘であっても、その身にまとう過去は偽れないから、言葉で語った過去が嘘であろうと関係がない。

 

理屈ではそういえるけど、実際に過去がみえない人を目の前にしてもそう言うことができるだろうか。

 

 

ある男

ある男