文章によって浮かび上がった人の影に憧れるというのは、おそらく誰もが経験するものだと思う。これは人間らしい感覚で、とても面白い。誰かの目を通して他人というものを覗く、ということを楽しめるのは人間だけだ。
文學界で連載時から楽しませてもらっていた『文豪お墓まいり記』読了。
以前山崎さんにサインを頂いてる時に、「本になりますよ」と教えてもらって以来一年近くほそぼそと楽しみにしてた。
ちょびちょび読もうと思っていたけど、面白くて一気に読んでしまった。
タイトル通り山崎さんが文豪たちのお墓まいりをした時のことを中心にして、文豪の生い立ちや、代表作の特徴や、読み心地も解説してくれる。
お墓まいりの前後に行った美味しそうなお店のグルメ情報まで。
これがまた美味しそう。
西加奈子さんや津村記久子さんやお母様と一緒にまいった時もあるけれど、だいたいは一人か夫さんと。
ちょこちょこ出てくる夫さんとちょっと噛み合っていないシーンが微笑ましい。
文豪についてのガイドブックになっているだけでなく、山崎さんのエッセイとしても楽しめる。
山崎さんの小説観や文学観も垣間見れて、小説家としての姿勢も感じられるのが好き。
本は誰に対しても開かれているけど、誰かの中に存在しているその本、その息づかいや、ありようは、その人だけのもの。
その本がその人のなかで留まらずにその人を通して、その独自の存在感に触れられる。
こういう本にはそういう嬉しさがある。
山崎さんの考えを好きだなと思うのは、それが「共感できるから」という理由ではなく、「そういう考えもあるんだな」と、わたしには見えていなかった視野を見せてくれるから。
山崎さんはわたしにとって大事な多様性の一部を担っている作家さんだ。