本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『あとかた』 千早茜

でもさ、何か遺さなきゃ駄目なのかな。そうじゃなきゃ意味がない?そんなわけない。想いのままに生きて、それで死んでいってもいいんじゃないか。あなたの演奏聴いてそう思ったんだよ

 

車窓を眺めるのが好きだ。次々移り変わっていく景色を眺めていると自分の中がさらさらと流れていくようで、
こんな風にさらさらと流れてよどみなくにごりなくいないなぁと思うけど、それだけじゃなくて、底の方に澱のような何かがあって欲しくて、
両方持ち合わせていたい。

澄んでいるためには何かを上手に手離すことも必要で、それでも諦めきれなかった何かは小さく底の方に沈んでいくのかもしれない。
それは沈んで膿んだり腐ったりもするだろう。だけど、こんな風にきらきらと小さく輝く結晶のような諦めもあるんだなと思わせてくれて、あらすじにあった「昏い影の欠片が温かな光を放つ」ってこのことだったのかなと思った。

たくさん泣いたあとのぼんやりとした疲れと、にぶいひかりのような本だった。

 

 

 

あとかた (新潮文庫)

あとかた (新潮文庫)