『宵待草夜情』 連城三紀彦
思い出しても記憶の闇に埋まるように頼りない輪郭しかもたない風景が、私の心を惹きつけ、苦しめるのだった。
娘の躰は、風を掬ったかのように何の手応えも私の手に残さず水底の方へ沈んでゆく木の葉を思わせる頼りなさで畳の上に落ちた。
近代文学と官能小説を掛け合わせたかのようなミステリ短編集。とにかく情念がすごい。明治大正昭和と時代を下るにつれ段々と薄れていった情念の原液を見た。
そしてその情念を感じさせる動機もすごい。
一目で見抜けない捻くれた独特でだけど迫力がある動機。
それだけ聞くと嘘っぽくていかにも作り物めいたものに聞こえるけど犯人の心情へと巧みに誘ってくれるから真に迫り息づく動機になっていた。
男性作家が書く女性って「こんな女いる?」って思う人も多いけど、この短編集に出てくる人たちもそうで、でもそれでもいるような気もしてきちゃう…。そんなリアリティがあった。
あと文章がすごく綺麗。妖しくて艶っぽく粘度の高い文章は日本人の感性や血を感じさせられる。
ミステリなんだけど、動機と文章がエンタメというより純文学だった。
名前は知ってたけどこんなすごい作品を書かれる方だとは。すごい。はまりそう。
ちなみにこの小説を読むきっかけになったのは新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』という新書。ミステリ新人賞候補作をたくさん読んできたりデビューした作家を支えてきた編集者によるミステリ解説書なんだけど、ミステリと一口に言ってもこんなに多様な語り口があるのか!と楽しく読めて、自分もミステリオタクになりたい!となった一冊。