本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

2019-01-01から1年間の記事一覧

人の世はどちらにしたって住みにくい。

去年「文豪の作品を読まなきゃ」と思い立ち、一番興味のあった夏目漱石の作品を読破しました。 と言っても新潮文庫で出てるのだけ…。 そして読破といってもほんとに読んだだけという感じで、作品の凄さはわかるけど、どこがどう凄いのか言葉にできないものば…

『スタッキング可能』 松田青子

ミステリが好きだった。はじめは何もないように見えたとしても、実際何も秘密がない、含みがない人間などこの世に一人もいないのだと、学生生活で、日常生活で、社会生活で、人を表面でしか判断しない、自分たちも表面しかないように見える人々に苦しんでい…

戦果アギヤー、生命の泉。

先の直木賞受賞作真藤順丈の『宝島』を読みました。 その後しばらくしてナンシー・ヒューストンの『時のかさなり』を読んで、たまたまだけどどちらも戦争を書いた作品で、どちらも素晴らしい作品だったので、ここに書いておきたいと思います。 宝島 時のかさ…

『あとかた』 千早茜

でもさ、何か遺さなきゃ駄目なのかな。そうじゃなきゃ意味がない?そんなわけない。想いのままに生きて、それで死んでいってもいいんじゃないか。あなたの演奏聴いてそう思ったんだよ 車窓を眺めるのが好きだ。次々移り変わっていく景色を眺めていると自分の…

読書日記 天の原 ふりさけ見れば 春日なる

私が百人一首に初めて触れたのは中学校での授業でした。 その音の耳心地の良さ、実感としてはわかってはいないものの恋の歌の切なさ大人っぽさ、そしてそのカルタというゲーム性にはまり、その後開かれた百人一首大会のために百首全部暗記。母に読み札を渡し…

アジア文学への誘い@チェッコリ 第1回『歩道橋の魔術師』

呉明益『歩道橋の魔術師』を読み終えました。3度目の読了。 やっぱり何度読んでも良い。 海外文学の作品を何度も読みかえすことは少ない。 日本の作品は読みかえすものもたくさんあるけれど、海外のそれは今思い浮かんだものだとポール・オースターの『ムー…

馬鹿と伊藤は使いよう。

伊藤は勝ち続ける。周囲の人間を傷つけ続ける。たぶん、一生。勝てるわけがない。だって、伊藤は永久に土俵に立たないから。愛してもらえるのを、認めてもらえるのを、ただ石のように強情に待っているだけ。自分を受け入れない人間は静かに呪う。結局、自分…

今村夏子さんのぞわぞわざわざわ

固くしばってある袋の口を少しだけひろげてなかの空気を吸いこむと、あのクリスマスの日のできごとや、それ以外の日々のことまで思いだされて、いつまでもスーハースーハーしながら泣いたり笑ったりできるのだ。もうとっくに、お好み焼きのにおいは消えてし…

読書日記 「列車」

誰だってそうであろうが、見送り人にとって、この発車前の三分間ぐらい閉口なものはない。言うべきことは、すっかり言いつくしてあるし、ただむなしく顔を見合わせているばかりなのである。まして今のこの場合、私はその言うべき言葉さえなにひとつ考えつか…

『文豪お墓まいり記』 山崎ナオコーラ

文章によって浮かび上がった人の影に憧れるというのは、おそらく誰もが経験するものだと思う。これは人間らしい感覚で、とても面白い。誰かの目を通して他人というものを覗く、ということを楽しめるのは人間だけだ。 文學界で連載時から楽しませてもらってい…

みずみずむずむず町屋良平

巨大な後悔とか、自己嫌悪、死んでしまいたい自己否定のさなかでも、ぼくは人生がおもしろかった。こんなの、神秘いがいのなんなのだろう? 表紙を見た時からなんとなくの予感はあったけど、本を開いたらきらっきらした青春が流れてきた。あまりにもきらっき…

顔も見えず声も聞こえない遠くの友達

久しぶりに韓国文学を読んだ。 やっぱり好きだった。 同じ作家さんの作品でなくても、どれもいい。 もう10人程の韓国の作家さんの作品を読んできたけどどれも好きで、「これはあんまり…」と思うものがなかった。 これはなんなんだろう。 いい作品ばかり日本…

読書日記 歩き読書禁止条例

前から本を読みながら歩いてくる人がいた。 ブックカバーをつけていないようだったので、すれ違う時に表紙をガン見したら村田沙耶香さんの『コンビニ人間』の文庫だった。 後ろの方のページを見ていた。 後ろの方といえば中村文則さんの解説だ。 この人は中…

大人だって読みたい絵本。

先日、千葉市美術館で開催中の「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」に行ってきました。 最近ではマツコの知らない世界で絵本が特集されていたり、NHKの本特集の番組でも絵本の読み聞かせが取り上げられていたり、絵本が気になる。 絵本っていいですよね。 大…

Twitter文学賞というお祭り。

今年もTwitter文学賞の季節がやってきました! ずっと結果発表を見るだけの私でしたが、今回は国内編海外編ともに投票したので更に結果発表が楽しみに。 今回はTwitter文学賞についてです。 Twitter文学賞とは。 Twitter文学賞のおもしろさ。 私の投票作品。…

読書日記 『すべての、白いものたちの』

雪が降りはじめると、人々はやっていたことを止めてしばらく雪に見入る。そこがバスの中なら、しばらく顔を上げて窓の外を見つめる。音もなく、いかなる喜びも哀しみもなく、霏々として雪が舞い沈むとき、やがて数千数万の雪片が通りを黙々と埋めてゆくとき…

読書日記 『ある男』

現在が、過去の結果だというのは事実だろう。つまり、現在、誰かを愛し得るのは、その人をそのようにした過去のお陰だ。 人に語られるのは、その過去のすべてではないし、意図的かどうかはともかく、言葉で説明された過去は過去そのものじゃない。それが、真…

読書日記 『多読術』

本は一冊ずつ、一冊だけを読んでいるんじゃないっていうことです。ジーンズの上にシャツを着たりセーターを着たりジャケットを着たりするように、自分のお気に入りのジーンズ・リテラシーの上にいろいろ本の組み合わせを着たり脱いだりすればいいんです。 本…

「本が売れない」も、悪いことばかりじゃない?

「本が売れない」って悪いことばかりではないのではないかな。 ふとそう思うことがあります。 本が売れない時代と言われているけれど、本が売れないからこそ生まれる本や書店があり、本が売れないからこそ浮かび上がる本への愛があるのではないかと。 今日は…

『たてがみを捨てたライオンたち』 白岩玄

稼ぎ手としての自信がないんだ。男は外で働いてないと格好悪い、仕事で成果を出してある程度の収入を得てないとみっともないっていう気持ちがあって、専業主夫にならないかって言われたときにためらったのも、それが理由だったんだよ。仕事をしてない自分が…

本屋大賞と三浦しをんさん

毎年楽しみにしている本屋大賞のノミネート作品が先日発表されました。 私は本屋大賞を取るようなメジャーな作品は普段あまり読まないのですが、去年は意識して話題の本や人気作家さんの本を読むようにしていたので、今回のノミネート作品では4冊読んだこと…

『おちゃめなふたご』 ブライトン

なにか児童文学を読みたい気分になってジャケ借りしたのは『おちゃめなふたご』 これが予想外に面白くなかなかしっかりした作品だった。 パットとイザベルというふたごを中心にクレア学院で巻き起こる様々な事件。 そのひとつひとつが子供ならではの無邪気や…

『珠玉』 彩瀬まる

美しさと才能のきらめきが最も意味を持つ世界に、私の居場所はないの。でも私は、自分がそんなに悪くない人間だって知ってる。 芥川賞祭りがひと段落したので、去年の年末に発売された彩瀬さんの新作『珠玉』を読みました。私、彩瀬まるbot作れるわ。ってく…

芥川賞候補作全部読むチャレンジ

昨日は芥川賞発表がありましたね。 今回は上田岳弘さん『ニムロッド』町屋良平さん『1R1分34秒』が受賞しました。 二人とも好きな作家さんだったので嬉しかったー。 私は3年ほど前から芥川賞の候補作を全部読んで受賞予想作を決め、ニコ生で解説を聞きながら…

読書日記 ピアノ・レッスン

幸福になるために、自分はなんと不可解で鬱陶しい義務を負っているのだろう 赤いワンピース—一九四六年 男の子に選ばれるために努力をする。選ばれるのを待つ。選ばれるために待つのを止めて(それがばかばかしくなって)自分の好きなことをしようとする。で…

愛する人に。 石井ゆかり

2019年の読み始めは石井ゆかりさんの『愛する人に。』でした。 この本は帯に「うまくいかない恋愛のことを立ち止まって、考えて、歩き出すためにー。」と書いてありますが、恋している人の支えになるだけでなくて、恋の他にも様々な感情の支えになってくれる…