本読みの芋づる

芋づる式読書日記。

『星の子』 今村夏子

宗教の自由を説く人は多いけれど、だいたいが「私は特定の宗教に属してるわけではないですが」という前置きをしている。その前置きがなかったなら、特定の宗教を信じていたら、説得力も誠実さも増すのにな、と聞く度に思う。全く別のものが見えていて、それ…

ヒーローアニメと『緋の河』、バラエティーとさくらももこ。

桜木紫乃さんの『緋の河』を読んだ。 桜木紫乃さんの作品を読むのは初めてだったので、好きになれるかどうかどきどきだったけど、これがもう。良かった。 カルーセル麻紀さんをモデルにした主人公が「あたしはあたしになる」と、自分が納得する自分自身を目…

『イジェアウェレへ フェミニスト宣言、15の提案』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

『イジェアウェレへ フェミニスト宣言、15の提案』は作者のチママンダが、女の子を出産した友達に、どうしたら「女だから」という理由でふりかかる、理不尽でマイナスな体験をさせずに子育てできる?と尋ねられたことをきっかけに出来た本。 チママンダ・ン…

読書日記 『わたしのいるところ』

彼女の頭には夢と計画が詰まっている。まだ世界が変えられると信じている。反抗する勇気があり、ここで自分の未来を築こうとしている。わたしはこの子を愛おしく感じているし、その根性をうらやましく思うところもある。と同時に、自分自身のことを考えて落…

読書日記 『緋色の習作』

三谷幸喜さん作・演出の舞台、「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」を観に行けることになったので、今月はホームズ作品読破が目標です。 三谷さんが日本を舞台にリメイクしたドラマ、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」も「アクロイド殺し」…

読書日記 誰かが信じているもの

小倉美惠子『オオカミの護符』を読んだ。 この本はオオカミ信仰、山岳信仰について、人々がどのように「おイヌ様」や「お山」に信仰してきたのか、どんな風に儀式が行われていたのか、生活にどんなふうに根差していたのかが書いてあるノンフィクション。 私…

読書日記『深呼吸の必要』

「遠く」というのは、ゆくことはできても、もどることのできないものだ。おとなのきみは、そのことを知っている。おとなのきみは、子どものきみにもう二どともどれないほど、遠くまできてしまったからだ。 子どものきみは、ある日ふと、もう誰からも「遠くへ…

『惨憺たる光』 ペク・スリン

「光」の持つ表裏と矛盾と魅惑。光の中で、ある人は癒しを得、ある人は心痛い現実に直面する。私たちが人に生まれた瞬間から、運命的に知っているもの。それは時に痛みであり、共感であり、懐かしさでもある。違うのは、それにいつ気付き、どう受け止めるか…

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ

「でも、多様性っていいことなんでしょ?」 「うん」 「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」 「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」 「楽じゃないものが、どうしていいの?」 「楽ばっか…

その人が見てほしいであろうその人を見る

古谷田奈月さんの『望むのは』という小説は、お隣にゴリラが住んでいる中学生が主人公だ。 ゴリラみたいな外見でもなく、そういうあだ名なわけでもなく、完全にゴリラ。といっても人間と同じように話すし、普通に生活をしているゴリラだ。 そのお隣ゴリラさ…

『まじめに生きるって損ですか?』 雨宮まみ

最初から自分と違う人の努力の物語、生きてきた時代や世界が違う立派な人の物語は受け入れられても、身近な人の立派な物語は怖いんです。なぜ怖いのか、それは「努力すれば自分にもできるかもしれない」からです。 「努力すれば自分にもできるかもしれないの…

プリキュアとアンパンマンとアンとジェイン。

今年の初めにプリキュアを見てからなんとなくハマってしまって、今ではローカル局で再放送されている過去シリーズも見ていたりして、なんかもうすっかりプリキュア好きになってしまっている。 まさかこの年で、なんの前触れもなくハマるとは。急展開すぎて未…

健やかなる時も病める時も適度な距離感を

「健やかなる時も病める時も適度な距離感を」 そんな言葉がふと浮かんできた時があった。 なぜそんな言葉が浮かんだのか、その前に何を考えていたのかは覚えていない。 しばらく忘れていたけれど、私なりの真実味を帯びたその言葉をまた思い出したのは、高山…

『生のみ生のままで』 綿矢りさ

男だから、女だから。そんなことはどうでもよくて。あなただから恋に落ちた。 恋の純度の高さ、その息苦しさ、その恍惚。 生のみ生のままで 上 作者: 綿矢りさ 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2019/06/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 生…

『リーチ先生』 原田マハ

河井寛次郎は、宴席で、陶工たちにそう説明した。「有名」だからいい、というわけじゃない。むしろ、「無名」であることに誇りを持ちなさい、と。何百年、何千年もまえの人間たちの、美しいものを愛する心が、いまに伝わり、いまなお息づいている。──それが…

『オリガ・モリソヴナの反語法』米原万理

三宅香帆さんの書評本『人生を狂わす名著50』で紹介されていた米原万理さんの『オリガ・モリソヴナの反語法』を読みました。 三宅さんの文章はほんとに楽しくて、紹介されてる本もいつも魅力的に書かれているのですが、実際その本を読んでみても面白い。 も…

『死にがいを求めて生きているの』 朝井リョウ

だけど人間は、自分の物差しだけで自分自身を確認できるほど強くない。そもそも物差しだってそれ自体だけでこの世に存在することはできない。ナンバーワンよりオンリーワンは素晴らしい考え方だけれど、それはつまり、これまでは見知らぬ誰かが行なってくれ…

読書日記 「おさん」

今年の目標の1つ、新潮文庫の太宰治作品読破がまったくすすんでいません…。 なんでだろ。月に2冊は読むはずなのに。 でも太宰治は意外と読むやすくて、読み始めたらするする読めてしまうのがいいところ。 昨日は短編集『ヴィヨンの妻』の「おさん」のところ…

読書日記 これやこの 行くも帰るも わかれては

引き続き『田辺聖子の小倉百人一首』を読み進めています。 枕元に置いて寝る前や、朝起きたけど布団から出る気がわかない時に、ちまちま読んでいるのでなかなか読み進められませんが、この速度でゆっくり読むの贅沢でいい感じ。 田辺聖子の小倉百人一首 (角…

人の世はどちらにしたって住みにくい。

去年「文豪の作品を読まなきゃ」と思い立ち、一番興味のあった夏目漱石の作品を読破しました。 と言っても新潮文庫で出てるのだけ…。 そして読破といってもほんとに読んだだけという感じで、作品の凄さはわかるけど、どこがどう凄いのか言葉にできないものば…

『スタッキング可能』 松田青子

ミステリが好きだった。はじめは何もないように見えたとしても、実際何も秘密がない、含みがない人間などこの世に一人もいないのだと、学生生活で、日常生活で、社会生活で、人を表面でしか判断しない、自分たちも表面しかないように見える人々に苦しんでい…

戦果アギヤー、生命の泉。

先の直木賞受賞作真藤順丈の『宝島』を読みました。 その後しばらくしてナンシー・ヒューストンの『時のかさなり』を読んで、たまたまだけどどちらも戦争を書いた作品で、どちらも素晴らしい作品だったので、ここに書いておきたいと思います。 宝島 時のかさ…

『あとかた』 千早茜

でもさ、何か遺さなきゃ駄目なのかな。そうじゃなきゃ意味がない?そんなわけない。想いのままに生きて、それで死んでいってもいいんじゃないか。あなたの演奏聴いてそう思ったんだよ 車窓を眺めるのが好きだ。次々移り変わっていく景色を眺めていると自分の…

読書日記 天の原 ふりさけ見れば 春日なる

私が百人一首に初めて触れたのは中学校での授業でした。 その音の耳心地の良さ、実感としてはわかってはいないものの恋の歌の切なさ大人っぽさ、そしてそのカルタというゲーム性にはまり、その後開かれた百人一首大会のために百首全部暗記。母に読み札を渡し…

アジア文学への誘い@チェッコリ 第1回『歩道橋の魔術師』

呉明益『歩道橋の魔術師』を読み終えました。3度目の読了。 やっぱり何度読んでも良い。 海外文学の作品を何度も読みかえすことは少ない。 日本の作品は読みかえすものもたくさんあるけれど、海外のそれは今思い浮かんだものだとポール・オースターの『ムー…

馬鹿と伊藤は使いよう。

伊藤は勝ち続ける。周囲の人間を傷つけ続ける。たぶん、一生。勝てるわけがない。だって、伊藤は永久に土俵に立たないから。愛してもらえるのを、認めてもらえるのを、ただ石のように強情に待っているだけ。自分を受け入れない人間は静かに呪う。結局、自分…

今村夏子さんのぞわぞわざわざわ

固くしばってある袋の口を少しだけひろげてなかの空気を吸いこむと、あのクリスマスの日のできごとや、それ以外の日々のことまで思いだされて、いつまでもスーハースーハーしながら泣いたり笑ったりできるのだ。もうとっくに、お好み焼きのにおいは消えてし…

読書日記 「列車」

誰だってそうであろうが、見送り人にとって、この発車前の三分間ぐらい閉口なものはない。言うべきことは、すっかり言いつくしてあるし、ただむなしく顔を見合わせているばかりなのである。まして今のこの場合、私はその言うべき言葉さえなにひとつ考えつか…

『文豪お墓まいり記』 山崎ナオコーラ

文章によって浮かび上がった人の影に憧れるというのは、おそらく誰もが経験するものだと思う。これは人間らしい感覚で、とても面白い。誰かの目を通して他人というものを覗く、ということを楽しめるのは人間だけだ。 文學界で連載時から楽しませてもらってい…

みずみずむずむず町屋良平

巨大な後悔とか、自己嫌悪、死んでしまいたい自己否定のさなかでも、ぼくは人生がおもしろかった。こんなの、神秘いがいのなんなのだろう? 表紙を見た時からなんとなくの予感はあったけど、本を開いたらきらっきらした青春が流れてきた。あまりにもきらっき…